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“官邸御用新聞”産経がまたしてもフェイク記事を 望月記者に答えた菅官房長官コメントの“捏造民意”を受け売り!

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官邸御用新聞産経がまたしてもフェイク記事を 望月記者に答えた菅官房長官コメントを加筆捏造!の画像1
2月8日午前の会見であざ笑うように書類を片付け始める菅官房長官(政府インターネットテレビより)


 “官邸御用新聞”のような産経新聞がまたしてもフェイクニュース騒動を巻き起こしている。それが「菅官房長官 名護市長選を疑問視する東京新聞記者に反論」と銘打った8日のネット配信記事だ。これは同日、東京新聞の望月衣塑子記者が名護市長選関連の質問を菅偉義官房長官の会見で行ったが、それに対する菅発言(存在し得ない架空の基地容認の民意を捏造)を紹介したのだ。

 産経が取上げたのは、8日の午前と午後の官房長官会見の最後の一問一答で、自公推薦の渡具知武豊氏が現職の稲嶺進氏をおさえ初当選した名護市長選に関するものだった。司会者から「この後の日程がありますので次、最後でお願いします」「質問は要点を明確にし簡潔に」と釘を刺された望月氏だったが、ひるまず詳細な背景説明を断行。まず共同通信などの世論調査結果(新基地反対が66%)を引用し、続いて4年前の沖縄県知事選や過去2回(2010年と2014年)の名護市長選で示された新基地反対の民意が省みられずに工事が進んだことも指摘し、あきらめムードから渡具知氏に投票した声が多数報道されたとも紹介した。

 望月氏といえば、それまで予定調和の質疑応答ばかりだった官房長官会見に単身で乗り込み、他の記者がけっして訊こうとしない厳しい質問を突きつけて、納得しない回答には粘り強く再質問、菅官房長官を苛立たせてきた記者だ。その姿勢は国民の疑問を代弁し追及する真っ当なものだが、しかし菅氏は今回、長めの質問を聞きながら含み笑いを浮かべつつ書類の整理を始め、会見終了を促すかのような仕草もした。それに対し望月氏は「笑うところではないと思います!」と一喝し政府の見解を次のように問い質したのだ。

「県民に寄り添った、市民の思いにこれまで寄り添った判断というのが行われていなかったのではないかと、やはり選挙の結果を見ても感じられます。この点について、政府としてのご見解を再度お聞かせ下さい」

 これに対し、菅氏はこう答えた。

「選挙は結果がすべてであります。そして相手候補(稲嶺氏)は必死に埋め立て阻止を訴えたんじゃないでしょうか。住民の皆様が選ぶのが、民主主義の原点がこの選挙であります。以上です」

存在しない架空の基地容認民意を垂れ流した産経

 菅氏は「名護市長選の民意は基地容認」であるかのように反論したわけだが、後で詳しく述べる通り、存在し得ない架空の基地容認の民意をデッチ上げたに等しかった。8日午後の望月氏の質問に対して菅氏は次のように答えたが、これを産経はそのまま受売りしたのだ。

〈(望月氏の質問内容を紹介した直後に)菅氏は「選挙の結果に基づいて、それぞれの首長が政策を進めるのが民主主義の原則であり、原点だ。世論調査のほうが民意を反映しているというのはおかしい。世論調査が優先されることはない」と強調した〉

 午後の会見でも菅氏は選挙結果がまるで基地容認であるかのようなフェイク発言をし、それを産経がファクトチェックをせずに受け売りした。望月氏の質問への反論をするために、両者の思惑が一致して産み落とした合作捏造記事とも思えるものだ。

 この菅氏のフェイク発言の狙いは、「名護市長選で市民(有権者)が基地を容認した」という架空の民意を無理やり作り上げようとするものだろう。そのためには、望月氏への反論によって「世論調査結果(基地反対66%)は名護市民の民意ではない」と強調する必要があった。その上で「新基地建設(埋め立て)反対を訴えた稲嶺氏が落選をしたのだから、選挙結果は基地容認の民意。それを優先すべき」と主張、自分たちに都合がいい結論に導くという手法である。

 しかし前回の本連載でも指摘したが、今回の名護市長選の経過や渡具知氏の勝因を検証すれば「基地容認の民意」が架空の代物であることは一目瞭然だ。

名護のフェイク選挙の尻拭いで、基地容認の民意をデッチ上げ!

 そもそも今回の渡具知氏勝利の裏には、渡具知氏の“二枚舌”作戦があった。市議時代に基地容認発言をしていた渡具知氏だったが、昨年12月、基地反対の公明党沖縄県本部と「海兵隊の県外・国外移設」を盛込んだ政策協定を結んで推薦を勝ち取り、2000票以上と言われる公明党の後押しを受けて当選。メディアが「公明党推薦が勝因」とそろって報じたのはこのためだが、こうした二枚舌と、「辺野古の“へ”の字も言わない」という自民党の卑劣な作戦のもと、渡具知氏は辺野古移設の賛否について姿勢をあきらかにせず、公開討論をすべて拒否した。つまり「基地容認イエスかノーかの民意」を示す機会を有権者から奪ったともいえるのだ。

「辺野古が唯一の解決策」として海兵隊用の新基地建設に邁進する安倍政権だが、渡具知氏は市長選勝利の鍵となる「公明党推薦」を得るために、「海兵隊の県外・国外移転」という公明党の政策を丸呑みした。

 民間企業に例えると、こんな話になる。〈渡具知氏は役員会議の第一議題「基地政策」で従来の海兵隊用新基地建設の持論を撤回、「海兵隊の県外・国外移転」に転向して仲間を増やすことを優先、自派閥の多数派工作に成功。そして、最優先の第二議題「地域振興」で独自案の国際リゾート産業振興を提案、相手派閥のパンダ誘致案に勝利した。だから役員会議の結論は「海兵隊の県外・国外移転(=海兵隊用新基地建設は不要)」と「国際リゾート産業構想の採用」となる〉。

 会議中は発言をせずに終了後に結論を自分勝手に捻じ曲げる小心者の重役と、選挙中は辺野古新基地の“へ”の字も言わずに後から「民意は基地容認」と言い出す政権中枢幹部が二重写しになる。会議でも選挙でも、意見の異なる相手との論戦に勝ち抜かない限り、自分の主張が正しいと認められることはない。市長選の民意は「海兵隊の県外・国外移転(=辺野古新基地不要)」や「国際リゾート産業構想採用」ではあっても、渡具知氏が降ろした旗の「基地容認」であるはずがない。会議中に賛否の論議がされなかった提案が採用されないのはごく当り前のことだ。

 名護市長選の結果に基づいて、渡具知市長が掲げた「海兵隊の県外・国外移設」、つまり不要となる海兵隊用の新基地建設阻止を進めるのが民主主義の原則であり、原点なのだ。渡具知氏が訴えなかった基地容認の方が民意を反映しているというのはおかしい。4年前に落選をした自民系候補が訴えたが、今回は不採用の基地容認の公約が優先されることはない。

官邸主導の卑劣な世論操作で当選した名護新市長にリコール運動を!

「選挙は結果がすべて」と会見で強調した菅氏は、こうした民意を素直に受け入れるべきだろう。そして産経の菅フェイクコメント紹介(架空の民意の受売り)は、示されようがない基地容認の民意を捏造しようとの画策が垣間見えるものだ。

 当選翌日の5日、渡具知氏は自宅で記者会見し「今回の選挙結果は辺野古容認の民意であると考えているのか」との問いに「そう思っていない。私は今回、『容認』ということで臨んだわけではない」と答えている。

 推薦をした公明党の立場も一貫していた。当確が出た後、金城勉・公明党沖縄県本部代表は、選挙事務所でこう述べている。

「(政策協定に盛込んだ)海兵隊の県外国外移転と日米地位協定改定を求める立場は維持する」

 言うまでもなく、海兵隊が沖縄から出ていけば、海兵隊用の辺野古新基地を建設する必要はなくなる。「海兵隊の県外・国外移転の実現=海兵隊用の辺野古新基地不要」という関係にあるのだ。
 
 安倍政権の思惑は、自民党が全面選挙支援をした“恩返し”を迫ることで、渡具知氏が公明党との政策協定を反故にして、選挙中に訴えなかった基地容認を再び主張することだろう。しかし、これもそう簡単ではない。かつて仲井真弘多・沖縄県知事(当時)が公約を翻して辺野古の埋め立て承認をして安倍政権に屈服したのと同じ醜態をさらすことになるからだ。ウソを垂れ流して当選することを禁じる公職選挙法違反となる可能性もあるし、騙された公明党支持者(創価学会員ら)が反旗を翻し、基地反対の稲嶺支持派と手を結んでリコール運動を展開する事態もありうるだろう。

 菅氏が思うほど簡単に地元の基地反対の民意を消し去り、基地容認の民意をデッチ上げることができるわけではない。今回の架空の民意を受け売りしたフェイク記事は、こうした苦しいお家事情の産物のように見えるのだ。

最終更新:2018.02.17 03:58

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