悪評紛々! 安倍政権の「人づくり革命」ネーミングのルーツは日本会議の設立宣言か、池田勇人のスローガンか

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首相官邸HPより


 先週の内閣改造で、安倍首相が新たな目玉政策に掲げた「人づくり革命」が大いに不評だ。担当大臣も置き、茂木敏充経済再生相が兼任するが、政策を推進する組織の名称が「人生100年時代構想会議」で、これまた意味不明。実際、多方面からツッコミが入っている。

 たとえばツイッターでは、〈人づくり革命って何ですか。ついに人造人間ですか?〉〈クローンでもつくるの?〉〈錬金術師かなんかですか?〉などと次々に揶揄され、ほかにも懐かしのアニメ『妖怪人間ベム』の子ども・ベロが「はやくにんげんになりたい!」と叫ぶ画像や、キューブリック作品『時計じかけのオレンジ』の有名な洗脳シーンのカットがアップされるなど大賑わい。一時、大喜利の様相すら見せていた。

 マスメディアもこの盛況に反応。朝日新聞や産経新聞はもちろん、普段、ネットの反応などはめったに記事にしないNHKですら、「『人づくり革命』、何度読んでも意味がわかりません」「人づくり革命って英文でどう訳すんだろう…当然“revolution”は入るんだろうな」「すべての大臣を一から教育し直しする大臣なのかな?」「まずは永田町の人づくりに革命を」などというコメントを紹介して〈戸惑いの声が相次いだ〉と報じるほどだ。

 まあ、こうした不評や揶揄も当然だろう。だいたい「人づくり革命担当大臣」を無理やり直訳したら“Minister in Charge of Revolution of Creation of Human”とでもなろう。まったく頭が沸いているとしか言いようがない(ちなみに、日本政府の公式訳は“Minister for Human Resources Development”に決まったが、これを訳し直すと「人材育成大臣」といったところ。さすがに「革命」はヤバいと思ったらしい)。

 だが、気になったのは、安倍首相はなぜ“目玉政策”に「人づくり革命」なる噴飯モノの名称を用いたのか、ということ。そこでふと思い出しのが、しばしば極右教育の文脈あるいは日本会議周辺で「人づくり」という単語が使われてきたという事実だった。

日本会議の設立宣言、生長の家・谷口雅春の「人づくり」の言葉

 周知の通り、日本会議といえば日本最大の右派組織で、安倍政権の熱烈な支持層だが、その設立宣言にはこうある。

〈我々は、かかる時代に生きる日本人としての厳しい自覚に立って、国の発展と世界の共栄に頁献しうる活力ある国づくり、人づくりを推進するために本会を設立する。〉

 また、この日本会議の中心に「生長の家」元信者らがいたことは周知の事実だが、その生長の家・創始者の谷口雅春が提唱した「人類光明化運動」(第二次五カ年計画、1964年発表)なるものをめぐっても「人づくり、国づくり」という言葉が使われていた。

 さらに、この「人づくり」という言葉は、日本会議に連なる極右文化人や評論家、政治家がやたら好んで口にしている。たとえば、日本会議とも関係の深いモラロジー研究所が出した『日本再生と道徳教育』(渡部昇一、岡田幹彦、梶田叡一、八木秀次の共著)の前書きには、廣池幹堂・モラロジー研究所理事長の言葉としてこんな宣言がおかれている(なお、廣池理事長は日本会議の代表委員でもある)。

〈「国づくり」とは「人づくり」です。先人たちが長い歴史の中で育んできた「日本が世界に誇るもの」──伝統文化や勤勉・正直・礼節・質素・忍耐・倹約・親孝行などの「よき国民性」を今こそ取り戻し、二十一世紀を担う子供たちに、しっかりと伝えていかなければなりません。〉

 ということは、もしかして、今回も安倍首相がまたぞろお仲間の極右団体の影響を受けて、こんなトンデモな命名をした。そういうことなのだろうか? 

 実際、安倍首相が第一次政権時に肝いりでスタートさせた教育再生会議でも、その初会合で安倍首相自ら「規範意識や情操を身に付けた『美しい人づくり』」なる目的を掲げていたし、第二次政権で発足した教育再生実行会議でのスローガンも「人づくりは、国づくり」だった。

「人づくり」の言葉を最初にスローガンに使ったのは池田勇人だった

 だが、もう少し調べてみると、この「人づくり」なる言葉は、日本会議人脈の専売特許ではなく、もっと以前に内閣のスローガンとして使われていた。それは、安倍首相の祖父・岸信介内閣の後を継いだ池田勇人内閣だ。池田政権といえば経済を最優先させた「国民所得倍増計画」が有名だが、1962年には新政策として「人づくり」構想をぶち上げている。当時の国会演説から引いておこう。

「私は、これらの施策(引用者注釈:所得倍増計画と池田外交)が着実にその成果を上げつつあることを確信し、今後におきましても、との方向に一段の努力をいたすとともに、さらに歩を進めて、文教の高揚とその刷新に努め、国づくりの根本たる人づくりに全力を尽くす決意であるのであります。
(中略)
 なかんずく、青少年の育成については、徳性を涵養し、祖国を愛する心情を養い、時代の進運に必要な知識と技術とを身につけ、わが国の繁栄と世界平和の増進に寄与し得る、よりりっぱな日本人をつくり上げることを眼目とする考えであるのであります」(62年8月、所信表明演説)

 池田はこの年、有識者を招いた諮問会議「人づくり懇談会」を設置。翌63年1月の施政方針演説では「人づくり」政策の内容や目的について、より具体的に述べている。

「人つくりについて申し上げます。人つくりは、国づくりの根幹であります。輝かしい歴史を生み出すものは、世界的な視野に立ち、活発な創造力と旺盛な責任感を持った国民であります。国民の持てる資質を最高度に開発し、それを十二分に発揮することは民族発展の基礎であり、その発展を通じて世界人類に寄与するゆえんでもあります」

 また、その際に「人づくり」政策の中心として「青少年の教育に関わる指導者、教育者の自覚を促し、その資質の向上をはかるとともに、道徳教育の充実、科学技術教育の振興(以下略)」の実行などをあげた。

 池田の「人づくり」とは、教育勅語に代わって愛国心や公共心を植え付ける道徳教育の推進、科学技術教育などの「産業界発展に寄与できる教育」の振興の両輪からなっており、背景には、保守派からの突き上げと、経済成長を支える人材を求める産業界の要請、そして1964年に開催される東京五輪で海外の人々を迎えるための公共心涵養の必要性があったといわれている。

 そういう意味では、愛国教育の一方で、新自由主義的な人材教育に猛進し、3年後に東京五輪を控える安倍首相の姿は、当時の池田とかなり重なっているように見える。

池田勇人の「人づくり」にも批判が殺到していた

 安倍首相が「人づくり」なる言葉にこだわるのは、“お友だち”日本会議の影響なのか。あるいは、池田勇人のモノマネなのか。

 しかし実はどちらにしても、その本質には変わりがない。日本会議の「人づくり」はいまさら言うまでもないが、池田の「人づくり」もまた、当時、そのネーミングと背景にあるグロテスクな考え方を徹底的に批判されていたからだ。

 20年の長きにわたって神奈川県知事を務めたことで知られる、経済学者で教育者の長洲一二は、1962年の「中央公論」10月号で、池田の「人づくり」のバッドセンスをこう批判している。

〈池田さんはキャッチ・フレーズがお好きだが、率直に言って、“人づくり”は感心できない。(略)“人づくり”は、“大国”の総理が国民に示す民族的標語としては、どうにも趣味がよくないように思われる。まして“金づくり”などと並べて出されては、国民的使命感を触発されるような気分には、どうもなりにくい。〉(所収『戦後日本思想体系』第11巻/筑摩書房)

 長洲の話からは、当時の社会の率直な反応もうかがえる。

〈現に早速、新聞にも、その英語訳を“マネー・ビル”にならって“モラル・ビル”とでもするかといった冗談話が出るし、ねんど細工をしている子どもに「人づくりよ」と言わせる漫画も載るといった始末である。俗受けの政治的効果が狙いなのだと言われればそれまでである。〉(前掲書)

 長洲が、試しに「一体、“人づくり”とは何だと思うか」と身近な人たちに聞いてみると、皆こんな答えを返したという。

〈中学三年の子どもをもつ母親は「人づくりよりまず学校づくり」と切実な声だった。「人づくり、大賛成。まず政治家からやってもらおう」という手きびしい答えもあった。私の尊敬するM先生は皮肉たっぷりに、「君、なつかしいことばだな。人づくりは、“産めよ、ふやせよ”、金づくりは“インフレ”、国づくりは“領土拡張”か」〉

「人づくり」の背後に国家主義と新自由主義のグロテスクな結合

 これらの反応は、現在の安倍政権の「人づくり革命」をめぐる巷間の反応と、まるきり同じである。しかも、似ているのはスローガンに対する否定的反応だけではなかった。池田の「人づくり」構想に対する長洲の批判は、安倍首相の「人づくり革命」を考えるうえでも極めて示唆に富むものだ。

 報道によれば、安倍首相はこの「人づくり革命」によって、幼児教育や大学などの教育費の無償化や、人材投資や地域経済、サービス業などの生産性向上の実現を目指し、さらに大学経営陣に企業の社外取締役にあたる民間人の起用を義務付けるという。実際、「日経ビジネス」(日経BP社)5月29日号のインタビューでも、「企業外に人材教育システムを作る」ために「地方の大学をより実践的な教育の場として充実させる」として、「生産性向上のための改革と人づくりのための改革に一体的に着手」すると意気込んでいた。ようするに、「人づくり革命」とは、文教行政と産業・経済・労働行政を横断、あるいは一本化した施作をもって、経済効率を上げる人間を“つくりあげる”ということのようだ。

 一方で長洲は、池田が「人づくり」なるスローガンのもとで行おうとしているのは〈倍増計画達成に必要な量動力の育成と、新安保体制に見合う愛国心の涵養、つまり経済と精神の二本立てである〉と看破していた。すなわち、資本主義(とりわけ現代的にはグローバル資本主義と新自由主義)のもとで要求される国民の労働力及び国際競争における優越は、国内的には強固な統合的意識を必要とし、その経済的要請に沿って“国民意識”を植え付けるのが、まさしく愛国教育や道徳教育なのである。

 そういう意味では、安倍首相の「人づくり革命」もまったく同じなのだ。国家主義と新自由主義が同居している首相の、国家と経済効率を最優先して個人の尊厳など一顧だにしない姿勢を体現していると言えるだろう。

 そして、この姿勢は、日本会議に代表される極右勢力にも共通するものであり、ルーツがどちらであっても、同じグロテスクな思想をベースにしていることには変わりはない。

 いずれにせよ、〈“人づくり”といった、何か人間を思おうままにこねあげるみたいな響きの日本語に抵抗感をおぼえぬようなセンス〉(長洲)には、十分に警戒せねばならないことだけはたしかだろう。

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