『心が叫びたがってるんだ。』が地上波初放送…脚本家・岡田麿里が物語に反映させた自身の引きこもり体験とは

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アニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』公式サイトより

 中島健人(Sexy Zone)や芳根京子らの出演で実写映画化され現在ヒット中の『心が叫びたがってるんだ。』。

 その元となったアニメ版の『心が叫びたがってるんだ。』が、本日21時よりフジテレビ系にて初めて地上波放送される。

 この『心が叫びたがってるんだ。』(通称『ここさけ』)は、幼少時に自分のおしゃべりがきっかけで父の不倫を母に悟らせてしまい両親が離婚してしまったことがトラウマとなり、他人と話すことができなくなってしまったヒロイン・成瀬順を中心にストーリーが展開する。そんな彼女は、クラス強制参加の地域ふれあい交流会の実行委員に指名され、そこでミュージカルを演じることになる。そして、クラスメイトと一緒に舞台制作や稽古に奔走するうちにだんだんとトラウマを克服していく……、というのがあらすじだ。

 この作品で脚本を担当した岡田麿里のもうひとつの代表作に『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(通称『あの花』)があるが、この作品もまた、引きこもりの主人公・宿海仁太(じんたん)が仲間とともに死んだ幼なじみの願いをかなえようとまい進することでだんだんと変わっていくという物語だった。

 実はこれらの作品には、岡田麿里自身の引きこもり体験が非常に大きな影響を与えている。本サイトでは以前、彼女の自伝『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(文藝春秋)を紹介し、『ここさけ』や『あの花』の物語がいかにして生まれたかを考察した記事を配信したことがある。

 ここに再録するので、是非とも読んでみてほしい。今夜の『ここさけ』の物語をより味わい深いものとして観ることができるはずだ。
(編集部)

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『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』と『心が叫びたがってるんだ。』。それぞれ人気テレビアニメシリーズであり、大ヒットアニメ映画だが、実は両者の作品には共通点が2つある。

 ひとつは、両方とも同じ脚本家によって書かれているということ。そしてもうひとつは、ストーリーの核となるテーマとして「ひきこもり」が描かれているということだ。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(以下、『あの花』)の主人公・宿海仁太(じんたん)は、幼なじみと母親の死や高校受験の失敗などが重なり、不登校に。普段は家に引きこもってゲーム三昧、用があって外出せざるを得ないときはニット帽や眼鏡で変装。偶然知り合いに遭遇すると慌てて逃げたり目をそむけたりする人物として描かれている。

『心が叫びたがってるんだ。』の元となった岡田麿里の引きこもり体験

 また、『心が叫びたがってるんだ。』(以下、『ここさけ』)の主人公・成瀬順は、幼少時に自分のおしゃべりがきっかけで父の不倫を母に悟らせてしまい、結果として両親は離婚。そのトラウマから声を出して話そうとすると腹痛に襲われるようになってしまう。一応高校には通っているものの、一言も話さないので当然友だちもおらず、クラスメイトからはのけ者にされている。

 この2つの作品に共通する「ひきこもり」というテーマは、実は脚本を務めた岡田麿里の実体験を色濃く反映させたものだった。彼女の自伝『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(文藝春秋)では、なぜひきこもる学生生活を送ることになったのか、そしてどうやってそこから抜け出すことができたのかを赤裸々に綴っている。

 彼女がひきこもり生活に突入し始めたのは小学校高学年の頃だった。きっかけは、いじめ。もともと、運動が得意でなく、思ったこともあまりはっきり口にできない性格の彼女は、小学校低学年のときから、いじめやからかいのターゲットにされていた。

〈教室を歩けば、横から足を出されて転ばされそうになったり。キキララの可愛い鉛筆を学校に持っていけば、「交換してあげる!」と、キャンディ・キャンディのばったもんの謎女子が描かれた、ちびた鉛筆と無理やり交換させられたり。ひどい時は、「もらってあげる!」と無理やり取り上げられたり。体育の授業から教室に戻って来ると、クラスメイトの筆箱やら理科の教材やらが私の机の中にぎっしり入っていて、「麿里ちゃんがどろぼうした」と糾弾されたこともあった〉

 とはいえその後、身の処し方を覚えた彼女はそういったいじめのターゲットにもされにくくなっていく。しかし、小学校5年生になると、また状況が変わる。思春期に入り始めるこの時期、クラスメイトの関係は小学校低学年のときとはまた違う複雑さをもち始めていた。

〈私はクラスでも目立たないグループに所属していたのだが、そこにもきっちりリーダー格がいた。リーダーは突然、「○○ちゃんと喋っちゃ駄目」と皆に号令をかける。ターゲットに選ばれれば、休み時間も一人になり、こそこそとあることないこと悪口を言われる。それは持ち回りでやってくるので、じっと待てば嵐が収まるのはわかっていた。それでも、いつ自分の番がくるだろうと緊張しながら過ごす日々はきつく、それまで月に一、二回だった休みが週に一、二回になった〉

『ここさけ』『あの花』の描写にも岡田麿里の体験が反映されていた

 もち回りでいじめの順番がまわってくる、この陰湿な感じには覚えのある人も多いだろう。そんな状況に耐えかね、彼女は本格的な登校拒否児童になってしまったわけだが、それからずっと登校拒否をし続けていたわけではない。中学入学を機に彼女は「自分改革」を断行。クラスの人気者だった時期もあったようだ。

〈ハブられる恐怖におびえる休み時間は、もうない。授業だって、中学では教わることがいっぱいなので大嫌いな体育の時間も減らされた。なのに、一日がとてつもなく長い。〉

 太宰治『人間失格』では、他人を恐れるあまり道化を演じる主人公に同級生の竹一が「ワザ。ワザ」と、その道化がつくられたキャラクターであることを指摘し、主人公が発狂しそうになるシーンがあるが、岡田のこのエピソードはまさしくそれを彷彿とさせる。

 そして、偽りのキャラクターを演じることに疲れを感じ始めた彼女はついに学校を休み始める。そして、年に3、4回しか登校しない、本格的なひきこもり生活に突入するのだった。中学は登校拒否のまま卒業し、なんとか合格した高校も半年ほど通ってドロップアウト。

 24時間365日、家でふさぎ込んでいる日々。彼女はほとんどの時間を母親とともに過ごすことになる。そんな日々のなかで母との関係も悪化していく。

〈母親が気にしていたのはあやふやな未来ではなく、今現在の周囲の目だった。
「こんな子供がいるなんて、恥ずかしい」
 これは本当によく言われたし、母親が一番に傷ついているのもそこだったと思う。周囲から、私が今どうなっているか聞かれる。噂される。なにしろ当時、田舎では登校拒否児は本当に珍しかったので、ちょっとした珍獣扱いだった〉

『ここさけ』では、成瀬順が母の不在時に町内会費を徴収しにきた近所の人に対応してしまい(言葉が口から出てこないので異様にギクシャクしたやり取りになり近所の人は困惑する)、それを知った母が「私がいないときは呼び鈴鳴っても出ないでって言ったでしょ」「そんなに私が憎いの?」「もう疲れた」といったようなセリフを口にするシーンがある。ここまで、脚本家である岡田自身の経験を基にしているとは驚きだ。

 では、岡田麿里はどのようにして登校拒否および引きこもり状態から脱したのか?

岡田麿里はどうして引きこもりから脱することができたのか?

『あの花』のじんたんは、亡くなった幼なじみ本間芽衣子(めんま)の亡霊を成仏させるため、めんまが不慮の事故で亡くなってしまうまで仲の良かった幼なじみグループ(超平和バスターズ)と一緒に奔走するうちにひきこもりから脱した。また、『ここさけ』の成瀬順は、地域ふれあい交流会でミュージカルを演じることになり、クラスメイトと一緒に舞台制作や稽古に奔走するうちにトラウマを克服することができた。

 しかし、現実の人生はアニメや映画のようにドラマチックな展開は起きない。高校卒業後、周囲からの心配をよそに彼女は単身、地元の秩父から東京へ。シナリオライターになるために、ゲームの専門学校に通うことになる。

 中学も高校もダメだった彼女が、この専門学校には通うことができたというが、登校拒否および引きこもり生活からの脱却は、そんな簡単ではなかった。決まった時間に登校するのは難しく、やはり週に2回は休んでいたし、人とのコミュニケーションには多くの悩みを抱えていた。

 社会に出てアニメのシナリオライターとして踏み出した後も、あまりうまくいっていない現場だと〈誰に挨拶していいかわからなくて教室に入れなくなった時のように、会社の玄関の前でためらってしまう〉という。

 ただ、それでも、「あーあーはいはい、もうやるしかねぇんじゃねえん」と頭のなかで叫び現場へ向かう。かつてのようなひきこもり生活に戻ることはない。それは、たとえつらくて苦しくとも、作品づくりに生きがいを見出しているからでもあるだろう。本のなかで彼女は仕事についてこのように綴っている。

〈アニメは、皆で作っている。
 その作品に関わった皆が、同じように苦しんで、同じ痛みを同時に持つことができる。だからこそ、強烈に幸せを感じられるときも一緒。それは、観てくれている人も同じ。観てくれた人が喜んでくれたら、泣いてくれたら。私もこうして涙がとまらないのだ〉

 となると、「チームプレーで共通の目的を達しようと頑張るうちに引きこもりから脱する」という『あの花』と『ここさけ』の展開は、やはり彼女の人生の投影といえる。そんなことを念頭に彼女の作品を見返すと、また新たな味わいが生まれるかもしれない。
(新田 樹)

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