“日本のお笑い芸人が権力批判できない”問題めぐり、太田光が茂木健一郎に噛みつく! 日和った自分への苛立ちか正当化か

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太田光が茂木健一郎「日本のお笑いはオワコン」発言に噛みつく理由、権力批判できなくなった自分への苛立ちか正当化かの画像1
『サンデー・ジャポン』HP


 連日各メディアで報じられている、太田光と茂木健一郎による「日本のお笑いはオワコン」発言をめぐる論争。今月12日放送の『サンデー・ジャポン』(TBS)でも、太田が「僕は茂木さん大好きでね。あの、確かにそうなのかもしれないけど、『お笑いがこうじゃなきゃいけない』みたいなのはね、一番窮屈なんですよ、我々から言わすとね」と反論し話題となった。

 立川志らくやウーマンラッシュアワーの村本大輔など、他の芸人も巻き込んだ論争へと発展したこの話題だが、そもそもの始まりは、先月末から今月頭にかけて茂木がツイッターに投稿したこんな文章がきっかけだった。

〈トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン。〉(原文ママ)
〈最近の大阪の国有地をめぐるあれこれ、その学校法人のトンデモ教育方針、アメリカやイギリスだったらコメディアンの餌食になって、人々が自由かつ柔軟にものを考える上で大切なメタ認知を提供していることでしょう。日本のテレビにそのような文化がないのは国家的損失です。残念っ。〉
〈日本の「お笑い芸人」のメジャーだとか、大物とか言われている人たちは、国際水準のコメディアンとはかけ離れているし、本当に「終わっている」。〉

 こういった問題提起に対し、茂木の元には彼のフォロワーから〈芸人さんの中でも爆笑問題のお二人は頑張ってますよ〉と返信が来るのだが、それを引用RTするかたちで茂木はこのようにコメントした。

〈太田さん、鋭くていいですね! ただ、コメディには、単に権力者を批判するだけでなくて、人権や自由、多様性の尊重といった骨太のバックボーンが求められます。笑うことで、みんなが自由にならないといけないのです。安倍さんを批判するだけだと、コメディとしては今一つ足りないかもしれません。〉(引用者の判断で改行は改めた)

 これに対し、太田は今月7日に放送された『JUNK 爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)のなかで反論を展開。「(アメリカのコメディアンがやっているような政治風刺のネタをつくるのは)簡単なんですよ。別に俺たちがとは言わないよ。ただね、政治風刺がいいっていうんだったらね。日本のお笑いのほうがよっぽど多様性がありますよ」と語り、テレビで男性器を映せないことを逆手に取って茶化すアキラ100%や、自分たちのことを自虐に変えて笑いを呼ぶブルゾンちえみ、平野ノラ、横澤夏子といった女芸人たちのネタだって、人々の生活と社会を反映させたものであるのに変わりはなく、それを感受できる日本人の客のレベルは高いとしながら、さらにこのように続けた。

「なんだって日本のお笑いのネタっていうのは全部が世相を反映してますよ。(中略)もし政治を風刺するネタが見たければ、いっぱいいますよ、そんなのは。地下にいます。我々も若手のころは放送禁止ライブだなんだって(やってましたが)、そんなヤツは(メジャーの舞台に)出て来れないです。そういうヤツらのライブのところに行けばいい。いくらでもやってますよ、笑えねえネタをね。いくらでもやってるし、もっとライトなのが見たければ、新聞の表層を切り抜いたような、なんかやってる新聞みたいな、なんかそんな、文化人が『これは良い』っていかにも言う、浅えなっていうのそういうのやってますよ。日本のお笑いっていうのは、いくらでも色んな角度でやるんですよ。直接的に安倍さんがどうだとかダサいことやってるのは俺らぐらいで。(中略)全部変換して直接そう言わずにテレビの乗っけてるんですよ」

 確かに、単なる床屋談義の変形でしかなく「風刺」になっていない、「笑い」に昇華できていないコントも多いのだろうし(ここで太田がほのめかしているコントグループのザ・ニュースペーパーがそうかどうかは本稿の趣旨とズレるので置いておく)、メジャーなフィールドで売れている芸人たちも一見くだらないネタをやっているように見えて、実はその裏に何らかの社会批判を混ぜているという読みも間違ってはいないのだろう。しかし、ここでの太田の反論は完全に話のすり替えだ。茂木が今回問題にしていることはそういうことではない。

 だいいち、太田だって10年近く前は雑誌やラジオで過激な政治的発言を連発していた。当時の右傾化の風潮を徹底批判し、靖国問題や教科書問題などにも切り込み、歴史認識についての中国や韓国の抗議を「内政干渉」とする国内の意見についても、正面きって批判していたではないか。たとえば、当時の雑誌連載ではこんなことも書いていた。

「かつて日本人として戦場に行かされた人々がいる。皇民として生きることを無理矢理強要され、自分の国の言葉を奪われ、名前を奪われて戦場に行かされた人々がいる。その人々にとって日本の歴史は自分達の歴史であることに間違いはない。(略)自分の都合の良い時だけ、お前達は日本人であるとして、都合が悪くなると、外国人が干渉するなというのは、あまりに身勝手ではないか」(東京ニュース通信社「TV Bros.」連載『天下御免の向こう見ず』より)

 日本国憲法についても、「人類が行った一つの奇跡」と敢然と擁護したうえで、「私に愛国心があるとすれば、それはこの国の“この国は戦争をしない国であると、世界に宣言している部分”に注がれる」とまで言い切り、中沢新一との対談本『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)を出版したこともある。

 しかし、2006年、太田の靖国についての言動に対し、右翼団体が所属事務所に抗議活動を展開。警視庁が事務所に警備員を常駐させるように要請し、太田にも護衛をつける騒動が起きた。この右翼の抗議事件をきっかけに、太田の連載やラジオの発言から徐々に、憲法や歴史認識などを扱う機会が減り始め、07年ごろには、こういうイデオロギー的なテーマに触れることはほとんどなくなった。

 しかし、15年3月、太田は『爆笑問題の日曜サンデー』(TBSラジオ)のなかで、首相の沖縄に対する対応のひどさを俎上にあげ、「安倍はバカ野郎」と発言した。太田としては久しぶりの過激な政治的発言だったのだが、それも安倍支持者やネトウヨたちから「一介の芸人が総理をバカにするな」「この反日チョン芸人が」「一国の首相に対して名誉棄損だ」などと総攻撃を受けると、以後は一切沈黙。

 その後は、首相主催「桜を見る会」に所属事務所代表を務める妻・光代氏と一緒に出席、腰砕けぶりをさらけ出したかと思えば、一昨年夏の安保法案を巡る反対デモに対しても「そのやり方は通用しないんじゃないかなと」などと発言。政権に対する批判を行い、デモ活動にも積極的に参加するアイドルグループ・制服向上委員会が話題となったときには、「あれ、やらされてるんだろうなぁ」、「あれはさすがにちょっと痛々しいよね」と吐き捨てた。また、安保法制可決後には「僕は9条護憲派ですけど、憲法改正はうんと遠のいたと思ってるんです」というズレた持論を展開するなど、どんどん社会批判のトーンは落ちていく。

 いくら一度茂木に名指しされたとはいえ、こんなに何度も反論するということは、太田は痛いところを突かれたということの証明でもある。安倍政権のグロテスクな極右思想がお茶の間にも知られつつある昨今、森友学園の問題にせよ、首相や稲田朋美をはじめとした各閣僚たちにせよ、徹底的に茶化し尽くして笑いのネタにするには格好の素材なのは間違いないが、前述したような流れから、太田が10年前に展開していたような社会批判を行うことはないだろう。

 ただ、無論これは太田だけの問題ではない。これはお笑い界全体の問題である。『バイキング』(フジテレビ)の雨上がり決死隊、『スッキリ!!』(日本テレビ)司会の加藤浩次、コメンテーターとして『白熱ライブ ビビット』(TBS)出演するオリエンタルラジオ・中田敦彦など、情報番組にお笑い芸人たちが進出する流れができて久しいが、彼らは本業のお笑いで見せる横紙破りなキャラクターが嘘のように、「世間の声」を代弁する「優等生」として振る舞ってしまう。それは、日本のお笑い芸人たちが「世間の空気」を読むことに長けているからで、議論を巻き起こすような発言よりも、大多数の思いを代弁するような言葉を口にすることを選んでしまう。その結果として、『ワイドナショー』(フジテレビ)の松本人志や『ノンストップ!』(フジテレビ)コメンテーターの小籔千豊のように、もはや政権与党の公式コメンテーターのごとく振る舞う人間も出てくるのだ。

 しかし、それはコメディアンとして求められる理想的な態度なのだろうか? そうではないだろう。太田も内心では「そうではない」と自覚しているからこそ、茂木の発言に噛み付いているはずだ。

 権力に対して強烈な皮肉を加えて笑いに昇華することは、弱い立場の民衆が持ち得る貴重な武器である。

 映画ライターの高橋ヨシキは、モンティ・パイソンが「アーサー王伝説」をパロディ化し王室や教会を徹底的にバカにし尽くした映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』をテーマにした高橋源一郎との対話のなかで、「お笑い」「コメディ」の本質的な役割についてこう話している。

「まあ、もともとコメディっていうのはそういうことをするジャンルなはずですね。つまり、権力をもっている方が強いに決まってるんだから、もってない側は何が出来るかっていったら、何も出来ないんだったらただ押さえつけられるだけになってしまうんですけれども、その代わりこっちはギャグにして笑い飛ばすことぐらいは残されているっていう。それが許されなくなるんだったら、ホントそれは恐怖社会ですよね」(NHKラジオ『すっぴん!』16年7月8日放送分より)

 権力批判ができないから日本のお笑いは「オワコン」とする茂木の論理はいささか短絡的かもしれない。しかし、大しておもしろくもない吉本芸人の楽屋落ちトークがひたすら垂れ流されている状況に視聴者たちは何を思っているかは、わざわざ書き記すまでもないだろう。茂木はツイッターにこのような文章も投稿している。

〈日本のテレビ、特に民放がいかに劣化しているか、当事者たちに自覚がないのは悲劇的。学生に聞いても、テレビよりもネット動画が中心。テレビを持っていない人も多い。タレントの馴れ合いの低俗なコンテンツを垂れ流ししていると良いお客さんは誰も来なくなって自滅するけど、それでいいのでしょうか。〉

 太田のような話のすり替えに終始するのではなく、お笑いに関わる芸人やスタッフは、今回茂木から投げかけられた問題提起を真摯に受け止めるべきではないだろうか。
(新田 樹)

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