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『あさイチ』震災特集に柳澤秀夫が苦言!「“震災で離婚減少”は福島の現実と違う」「データで一括りにするな」
『あさイチ』HPより
東日本大震災から明日で6年が経つ。この時期メディアでは震災関連の番組や特集が多く組まれるが、『あさイチ』(NHK)で、NHK解説委員の柳澤秀夫が自らの番組の報道姿勢に静かな怒りを見せたシーンがあった。
8日の『あさイチ』(NHK)では震災特集として「データでみる東日本大震災から6年」が放送された。この6年間で、私たちの暮らしの何が変わったのか、そして何が変わらないかを様々な“全国データ”で考察するとういうもの。たとえば、震災直後に増えた被災地のふるさと納税、全ての米で放射性物質の検査をしているのになかなか伸びない福島産の米、復興に程遠い福島県の漁業の実態などが、データで示されていったが、最後に示されたのが“結婚と離婚”のデータだった。
番組では震災直後に女性が殺到したという大阪にある結婚相談所を取材し、当時流行語となった“震災婚“絆婚”という言葉を紹介。婚姻数は震災翌年には7000件増えたあと、減少したこと、一方、離婚件数も震災前年と比べて1万6000と大きく減少したことなどが“全国データ”で示された。これに対し司会の有働由美子アナが「6年経つと(結婚感に対する)考え方が変わるというか。私は変わりませんけど(笑)」と笑いを取り、コメンテーターの三田寛子も「東北の方々のご苦労も見えてきました」と無難なコメントをするなか、憮然とした表情で苦言を呈したのが解説委員の柳澤秀夫だった。
「一言では言えないね。だって離婚が減っているというのも福島の現実と違う。帰る、帰らないで、いろいろ問題になっている。ひびが入って離婚することが福島の場合には問題になっているくらいなので。全国で大きい目でみるのと、(福島も一緒に)データでくくるのは、正直、違和感がある。くくれない」
これに対し、フォローするように司会の井ノ原快彦や有働アナが発言するが、しかし柳沢はこう続けた。
「5、6年で現実が見えるものもいいけど、僕は福島出身ということもあって、それはなかなか見えてきませんね。福島の当事者にしてみれば、農作物を作るにしても愚直に、やれることを丁寧に続けるしかないんです」
「(福島の米が)検査されていると知っている人が40 %にも満たない。メディアの側ももう少し考えないといけないということを突きつけられたと思います」
「日常の戻り方が被災地と被災地でない人の差が大きくなっていますよね。僕たちは震災と関係のない日常が戻っていますけど、被災地はそうではありません」
つまり、柳沢は被災地、特に福島の現状や離婚の実態を“データ”、それも“全国データ”でひとくくりにして欲しくないと、静かな憤りを表明したのだ。その上で、未だ“絆”などと言って、被災地の現実から目を背け、被災地の状況を正確に伝えないメディアにも苦言を呈したのだ。
柳沢の怒りはもっともだろう。確かに震災以降、福島も含め全国的に離婚率は減っている。しかし甚大な原発事故、そして未曾有の放射能汚染に見まわれた福島に限っていえば、その事情はあまりに特殊だと言わざるをえない。
親にとって子どもの被ばくは事故直後から現在までもっとも切実な問題だ。今年2月20日に開かれた福島県の「県民健康調査」検討委員会でも、昨年末発表からさらに1人増え、甲状腺ガンまたは悪性の疑いが184人に達したことが発表された。こうした現状もあり、現在も自主避難を続ける親子は多いが、自主避難をめぐり多くの家庭が一家離散、あるいは離婚に追い込まれるケースは少なくない。
たとえば、自主避難をテーマにした『ルポ 母子避難――消されゆく原発事故被害者』(吉田千亜/岩波新書)では、自主避難した多くの家族の“分断”や“苦悩“が描かれている。
2人の幼い子どもを連れて避難したものの、夫は仕事のため単身で福島に戻った河井加緒子さん(当時29歳)もその一人だ。母子は事故後、埼玉県の公営住宅で避難生活を始めた。しかし夫からは、避難生活に対する経済的援助は一切なく、放射能のリスクや子どたちへの影響にも無関心だった。
「ある日、夫が河井さんのいないところで「あいつが勝手に避難したんだ」と身内に話していたことがわかった。子どもを守るために避難するのは当然だと河井さんは考えていたが、夫は違ったのだ」
河井さんはフルタイムの仕事を得ることができたが、小さな子どもたちを抱えどんどん疲弊していき事故後10カ月ほどで離婚を決意したという。
他にも離婚には至ってはいないが慣れない環境、離散生活で母子ともに体調を崩すケース、夫の両親との意見の違いからなかなか子どもを連れて逃げられない母親、原発事故で失いたくない仕事を捨て、新築したばかりの家を出る。避難先では貯金を切り崩す生活を余儀なくなれる。そのうえ、子どもの幼稚園や学校、進学、そしていじめの問題もある。
また今週発売の「週刊女性」(3月21日号 主婦と生活者)の被災地特集でも、いまだ続く家族、そして夫婦の亀裂が紹介されている。
「“二重生活は嫌だ”と反対する夫ともめたんです。私は子ども中心で考えたいのに、結局押し切られた」(県外避難がかなわなかった30 代女性)
「夫の親は“爆発からもう5年もたった。安全だ”と言いますが、私は“まだ5年しかたっていない”と言いたい。でも夫との間で放射線に関する話はしません。話せばもめますから」(2人の子どもをもつ30代女性)
水面下で、しかし着々と進む家族の亀裂。そして放射能の問題を口にすれば離婚しかないという現状。その事情は様々だが、しかしいずれも原発事故がなければ決して起きていなかったはずのものだ。
しかも今年3月、一部を除く避難区域の解除に伴う帰還事業と、自主避難者への住居の無償提供が打ち切られる方針だ。そうなれば経済的、心理的、そして子どもの健康、教育問題など、これまで以上に様々な問題が避難者たちに大きくのしかかり、追い詰められる家族がさらに増えることは想像に難くない。
ようするに、この日の『あさイチ』はこうした現実があるのに、「離婚が減っている」などというデータをもちだしていたのだ。無神経としかいいようがない。
というか、そもそも、震災を語るのに、ざっくりした全国データを意味ありげに並べることにいったいなんの意味があるのか。むしろ、福島をはじめとした被災地がいまも抱える問題に蓋をして、社会を分断させることにしかならない。おそらく、柳沢はそう指摘したかったのだろう。
もちろんこの問題は『あさイチ』に限ったことではない。震災報道全体、そして社会の空気や政府の姿勢にもいえることだ。震災以降、この国では「絆」「みんなでひとつになろう」「前を向こう」といったざっくりとした美しい言葉をやたら声高に叫んで、震災、原発事故によって起きている過酷な現実をごまかしてきた。
しかし、いくら言葉で「絆」を強調したところで、問題は解決しない。むしろ、美しい言葉とは裏腹に、現実はどんどんグロテスクになっていく。被災者は隅っこに追いやられ、誰も被災地の問題に見向きもしなくなり、美しい物語からこぼれ落ちたいちばん過酷な状況にある人が、いちばん虐げられ、ものが言えなくなっている。
震災と原発事故から6年。柳沢の静かな怒りは、私たちはそのことを思い出させてくれたといっていいだろう。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.21 12:48
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