ToshIはなぜ洗脳され、そして逃げ出せたのか…X JAPANドキュメンタリー映画にも出てこない洗脳事件の真実

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映画『WE ARE X』公式サイトより


 今月5日(現地時間4日)、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、クイーン、デヴィッド・ボウイなど数々のミュージシャンの公演で知られる伝統的な1万人規模のアリーナ会場、ロンドンのウェンブリー・アリーナで単独ライブを行ったことがニュースとなったX JAPAN。

 この公演は本来であれば1年前に行われる予定だったが、PATAの大病のため止むなく延期。入院治療し、復帰した後に行われた待望の振替公演である。

 X JAPANというバンドの歴史には、このような劇的な展開がことさらに多い。HIDE、TAIJIとバンドに関わったメンバーを若くして 2人も亡くし、ToshIは自己啓発セミナーの主催者に洗脳されバンドを脱退、それにより一度解散しているのはご存知の通り。現在、デビューからのバンドの道筋を追ったドキュメンタリー映画『WE ARE X』が公開されているのだが、映画ではそのようなスキャンダラスな一面にも大きく踏み込み、観客からは驚きの声が漏れている。

 そのなかでも大きくクローズアップされているのが、一度バンドが解散にまでいたった大きな要因であるToshIの洗脳だ。洗脳とそこから抜け出す過程を本人が語るのに加え、その様子を見ていた関係者からの証言まで映画にはおさめられている。特に、1997年に東京ドームで行われた解散ライブのとき、あまりにもToshIの挙動がおかしかったことから、何か変な発言をし始めたらすぐにマイクのスイッチをオフにできるよう、YOSHIKIとHIDEが裏方のスタッフと打ち合わせしていたというエピソードは衝撃的だ。

 清水富美加による幸福の科学への出家騒動の余波も冷めやらぬなか、いまの時代にもなにがしか共通するものを感じるToshI洗脳騒動。実はこの件について、映画で語られている以上のことをToshI本人が語ったことがある。2014年に出版された告発本『洗脳 地獄の12年からの生還』(講談社)を見ながら、なぜ彼は洗脳に陥り、そして、どうやってそこから抜け出したのか、振り返ってみたい。

 洗脳に陥る前、彼は2つの悩みを抱えていた。1つは家族に関係する問題である。まずは長兄。ToshIは個人事務所立ち上げの際、レコード会社や芸能事務所に勤務し芸能の仕事に精通していた長兄に社長をお願いしていた。しかし、その期待は裏切られることになる。自分のラジオ番組でトークの相手役に長兄を抜擢すると、もともと芸能人としての成功を夢見ていた彼は、ToshIのファンの間で名の知れたタレントになったことで舞い上がり、社長業としての仕事がどんどんおろそかになっていく。彼の素行に対して他のメンバーからもクレームが出るようになり、ToshIは社長を解任させなくてはならない事態にまで追い込まれてしまうのだった。さらに追い打ちをかけるように、今度は母の行動がToshIを傷つける。母は自分の息子やYOSHIKIの幼少時の写真(ToshIとYOSHIKIは幼小中高が同じ幼なじみ)をファンに見せて金をとっていた。この行動にもX JAPAN関係者から抗議の声が入り、ToshIは各所に謝罪することになる。

 スターとして成功したToshIを自らの「欲」のために利用する家族の姿を目の当たりにした彼は人間不信に陥ってしまう。そしてそこに重なったのが、歌手としての自信喪失である。バンドが世界進出するのにともない、YOSHIKIから要求されるヴォーカルのレベルは一段と厳しさを増していく。ピッチやリズムなどはもちろん、ネイティブが聴いても違和感のない英語の発音など、努力してもYOSHIKIの満足するレベルの歌を歌うことはできなかった。そのことが歌手としての自信喪失へとつながっていく。

 映画『WE ARE X』でも、『ART OF LIFE』のヴォーカルレコーディングだけで1年間を費やしたことや、この時期を境にToshIとYOSHIKIの間で普通の日常会話ができなくなっていく過程が赤裸々に明かされていたが、前出『洗脳』では、その時期の怒りと悔しさについてこのように綴っている。

〈僕は、YOSHIKIの要求に応えられない自分のふがいなさに、自分自身に憤り、またそんな要求をするYOSHIKIにも憤りを感じていた。自分の歌のレベルがあまりにも低いことを痛感していた僕はX JAPANのヴォーカルとして、メンバーとして、やっていく自信も、気力も、またその資格もない……と思うようになっていった。スタジオには日々暗く重い雰囲気が漂い、YOSHIKIとはほとんど口を利かなくなっていた〉(以下、すべて『洗脳』より)

 家族のことは信頼できなくなり、さらに、バンドのなかでも居場所がなくなっていく。そんな心の隙間に「洗脳」の魔の手が忍び寄る。きっかけは、1993年にロックオペラ『ハムレット』の主役を演じてくれないかという依頼が舞い込んできたことだった。歌手としてのステップアップにもつながるこの話をToshIは快諾するのだが、そこで共演し、後に結婚することになる守谷香との出会いが彼を悲劇に落とし込んでいく。

 前述したような悩みを抱えていたToshIは、守谷と関係を深めていくにつれ、家族からもX JAPANからも距離をとるようになっていく。結果的に、バンドを脱退することにもなるのだが、色々なことが重なり将来に迷っていた彼に、守谷はヒーリングアーティストを名乗るMASAYAが主催するセミナーを一緒に受講するようもちかける。このセミナーが本格的な「洗脳」の始まりだった。

 このセミナーでは、まず、自分の生い立ちを語り、自らが負ってきた心の傷をさらすよう迫られる(これを「シェアー」と呼ぶ)。そして、その後には、自我やエゴから解き放つためと称して、他のセミナー参加者から罵声を浴びせられるというプロセスが待っていた(これを「フィードバック」と呼ぶ)。ここでは、暴力もともないながら、こんなきつい言葉が浴びせられていたと言う。

「母親に、地位や名声や人気がいるのよーと言われて、母親に認めてほしい、愛してほしい、捨てられたくないと思った幼少時のおまえが、それに騙されて、スターの座に醜くも上り詰めたから、利用価値があると言って銀蝿のような連中にちやほやされて、アゴを伸ばして化け物アゴ男になったんだって!」

 ToshIがバンド脱退を申し出た1997年の大晦日、最後に東京ドーム公演と紅白歌合戦のステージに上がり、X JAPANは解散することになるのだが、「X JAPANはヴィジュアル系とかいう、もっとも自我の強いおぞましい集団の頂点に君臨する悪の権化だ」と罵倒を受け、洗脳されていた彼は、この公演中もMASAYAや守谷の目線が気になって仕方がなかったと言う。「フィードバック」の際、ステージ上で発した言葉をネタに罵声や暴力が飛んでくることは目に見えていたからだ。

 普通に考えればそんな場所からは逃げてしまえばいいと思うのだが、家族にもバンドにも自分の居場所がどこにもなくなってしまい不安でいっぱいだった彼にとって、セミナーから抜け出すことは考えられなかった。そしてその後は、マスコミに洗脳疑惑を報道されながらも、セミナーの広告塔となり、CDを売りながら地方をまわるドサまわりの日々を送ることになる。その活動で得た収益のほとんどはセミナーに入り、ToshIは洗脳の日々のなかで10億円以上の金をむしり取られた。

 そんな洗脳が解けたきっかけ、その大きな要因のひとつもまた、X JAPANだった。2006年、ToshIは旧知の音楽関係者からX JAPAN再結成の話をもちかけられる。その際のギャラは3億円という破格のもの。しかし、守谷やMASAYAから「X JAPANは世界中の若者をダメにした張本人」とバンドのことを罵倒されてきた彼はその話を受ける気はなかった。しかし、高額のギャラを知ったMASAYAは、なんと、その話を受けて前金としてもらえる1億5000万円をすぐさまもらえと指示する。その矛盾に直面した瞬間、ToshIの頭にある疑念が浮かぶ。

〈(えっ、結局は金?)
 あれだけX-JAPANを非難され、「宇宙的犯罪者」とまで罵倒され、暴力を受けてきた僕は、さすがにその言葉にすぐに納得することはできなかった。
 もちろん、「MASAYAの言うことは常に宇宙的に正しい」のであり、僕の反感や疑問などは、「自我の強い人間特有の醜いもの」であると徹底的に刷り込まれている僕は、その反感を打ち消そうとしたが、さすがに「X-JAPANへ僕を戻すこと」は、その後もずっと心のどこかにわだかまりの種となって残るものとなった〉

 そして、X JAPAN再結成の動きを通じ、色々な人との交流を復活させることで、ToshIは洗脳される前の感覚を取り戻していく。YOSHIKIとの関係もそうだ。

〈幼少時からの長年染みついた感覚は、十年の時をあっさり飛び越えた。
 僕は、MASAYAからの命令とはいえ、X JAPAN再結成には抵抗があった。だが、十年ぶりにYOSHIKIの顔を面と向かって見ると、どうしてもなにか少年の時に戻るというか、不思議な感覚となってしまう自分がいた。
「また一緒にやりたいね」
 YOSHIKIに伝えたその言葉は、MASAYAらの背景から故意に言わされているものなのか、僕とYOSHIKIの間に長年にわたって脈々と流れ続けている、僕ら二人以外誰も立ち入ることのできない「何か」に不意にそう言わされたのだろうか……〉

 それはYOSHIKIとの関係だけではない。X JAPANの他のメンバーや後輩のミュージシャン、また、自分のことをサポートしてくれる人たちとの交流が、10年近くセミナーの狭い人間関係のなかに押し込められていた彼に開かれた視野を取り戻させたのだった。

 そして彼は、どんどんMASAYAの言葉や態度に疑問をもつようになっていく。そしてついに、守谷とMASAYAが肉体的な関係をもっているということにも気づいてしまったのだった(おそらく、自分と出会う以前から守谷とMASAYAはそういう関係で、始めから広告塔や金づるとして利用するために近づいてきたのだろうと現在のToshIは分析している)。

 守谷にも、MASAYAにも嫌悪感を抱いたToshIは追ってくるセミナー関係者から身を隠し匿ってくれる支持者の協力を得て逃亡。そして、2010年、記者会見を開き、世間に向けて洗脳されていた事実、そして彼らの詐欺的な振る舞いを告発したのだった。

 もしも守谷やMASAYAと出会う時期が数年ズレていたらX JAPANはもしかしたら一度も解散せずにキャリアを重ねていたかもしれないし、もしもX JAPANの再結成話がもちこまれなければ、いまでもToshIはMASAYAの金づるのままだったかもしれない。そう考えると、現在こうしてウェンブリー・アリーナに立っているということが、まさしく奇跡のように思えてくるのである。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.21 12:42

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