日米首脳会談でも岸信介のモノマネ…じいさんコンプレックスの塊・安倍首相が抹殺した父親ともうひとりの祖父の物語

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『安倍三代』(朝日新聞出版)

 あれもじいさんのモノマネだったのか。日米首脳会談でトランプに嬉々として尻尾をふり続け、日本をどんどん危険な泥沼にはまりこませようとしている安倍首相。明日はトランプとゴルフをラウンドすることになっているが、この「ゴルフ外交」とやらは、安倍首相の祖父である岸信介が1957年、アイゼンハウワー大統領とゴルフをしたことがルーツらしい。

 実際、安倍応援団のテレビは岸とアイゼンハウワーがゴルフをする当時の映像を流して盛り上げ、安倍首相自身も出発前に「目の前で外して悔しがる大統領の姿を見て、二人の距離は急速に縮まった。祖父からそんな話を聞いた」と胸をはっていた。

 こうした姿を見ていると、安倍首相はこれから、A級戦犯を逃れるため米国と裏取引をし、ゴルフ外交で著しく不平等な日米安保条約を結んだ祖父と同じように、この国をトランプ帝国に売り渡すつもりではないのか。そんな不安さえ覚えるのだ。

 これは冗談ではない。本サイトでは、安倍首相が憲法改正にこだわり、嘘やこじつけもためらわずにメディアを弾圧し、戦前回帰的な政策に固執する根元には、母方の祖父である岸への“グランドファザー・コンプレックス”とでもいうべき薄っぺらな盲信があることを何度も指摘してきた。

 しかし一方、安倍首相がまったくといっていいほど触れようとしない“もう一人の祖父”がいる。父方の祖父である安倍寛だ。安倍首相は岸への敬愛をことあるごとに自慢げに語ってきたが、安倍寛についてはほとんど口にしないどころか、まるで“隠蔽”するかのような態度を貫いている。

 その理由は何か。それは安倍寛が、母方の祖父の岸や安倍首相自身とは真逆の反骨心を持った、極めて真っ当な“反戦政治家”だったからにほかならない。
 

 そんな安倍寛を基軸とし、息子・晋太郎、そして孫・晋三という安倍家“三代”の歴史を紐解き、晋三という世襲政治家の“空虚な実像”に迫った著書が最近刊行された。気鋭のジャーナリスト・青木理による『安倍三代』(朝日新聞出版)だ。2015年から「AERA」(朝日新聞出版)誌上で断続的に連載された「安倍家三代 世襲の果てに」に大幅な追加取材と加筆を施したものだが、これまでほとんど知られることのなかった安倍寛の実像と、孫の晋三とはまったく異なる“反骨の実像”の詳細が描かれている。

 1894年(明治27年)、山口県の旧大津郡日置村(のちの同郡油谷町、現在は長門市油谷)の地主のもとに生まれた寛は、幼いうちに両親を亡くすが、勉学などに極めて優れ、最高学府である東京帝国大学政治学科に進学した。その後に帰郷し、1935年には山口県議会議員に、さらに1937年と1942年の衆院選では当選を果たし、国政にも進出している。

 その政治姿勢は、常に反戦平和主義と貧富の格差への怒り、つまりは“低い目線”に貫かれていたという。本書は往時の寛を知る多数の関係者を取材し、それを裏づける証言や資料を詳細に描いているが、驚くのは1937年、寛が最初の衆院選に出馬した際の選挙公約、いまでいう“マニフェスト”にあたる文書だろう。これは本書で初めて広く公開された貴重な資料だ。

〈若し政治と云ふものが国民生活の安定、大衆の幸福増進と云ふ事を意味するものならば、現在の政治は決して良い政治と云ふ事はできないのであります。一度び目を世相に転じる時は、年と共に貧富の差が甚だしくなって行くために、立派な頭脳と健康な体力を持ちながら、働くにも職のない多数の失業者がいます。
 働いても働いても生活の安定を得ざる労働者が充満して居ります。(中略)世相は凄惨を極めて居る状況にあります〉

 寛の出馬公約にはこのほか、苦境に喘ぐ国民を顧みない軍部の暴走、それを止められない既成政党への厳しい批判などが切々と綴られているが、この公約を紹介した上で著者の青木は寛の政治姿勢をこう解説している。

〈貧富の差への憤り。失業対策の必要性の訴え。生活が不安定な勤労者や農家、中小企業経営者に寄せる配慮。その一方、大資本や「財閥特権階級」に向けられた厳しくも辛辣な視線。(中略)政治を志した者が当然抱くだろう理想と理念、そして基礎的な知性と教養を備える一方、最底辺の生活にあえぐ人々の現実の生活を十分に知悉していた。目線は徹底的に低く保たれ、労働者や農村、そして中商工業者の代弁者になることを目指すのだと唱える庶民感覚を備えていた〉

 青木はさらに寛の政治姿勢を評価しつつ「どこぞの政権に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい」と痛切に皮肉っているが、「どこぞの政権」が何を指しているのかはあらためて解説の必要もないだろう。しかも当時は日本が戦時体制に突入し、軍部ファッショ体制が完成しつつあった時代だ。1933年には国連を脱退、1936年には二・二六事件が発生、そして翌1937年には日中戦争勃発。もちろん政界も軍部の圧倒的な力にひれ伏しており、その中で反戦や反骨を貫くのは容易なことでなかったろう。

 それでも寛は抵抗した。戦争遂行のためと称して既成政党が解散して大政翼賛会に一本化し、1942年に実施された総選挙は非推薦候補として戦っている。この選挙は、戦争遂行という国策に協力的な候補を翼賛政治体制協議会が推薦し、軍部などが手厚い支援を行う一方、非推薦の候補は特高警察や憲兵から熾烈な監視や弾圧を受けたのだが、寛は病身を押して非推薦で立候補し、なんと当選をもぎ取るのだ。

 後に寛の息子・晋太郎が毎日新聞に寄せた回想記には、金権腐敗を糾弾し、戦争にも反対を続けた寛は、軍部ににらまれ、あらゆる妨害を受けたこと、また当時17歳だった晋太郎自身も執拗な警察の尋問をうけたことを明らかにしている。しかし、こうした逆風のなかでも寛は東条内閣に真っ向から歯向かい、軍部におもねらなかった。そして周囲に反戦、反骨の強烈な印象を残している。本書には、地元の古老たちのこんな証言が数々紹介されている。

「寛さんが翼賛会に入らなかったのは、戦争に反対だったからじゃよ。特に軍閥のやり方が気にいらなかったんじゃ」
「人柄っちゅうか、威厳っちゅうか、そりゃ今の政治家では絶対に追いつかれん。それくらい傑物じゃった。サムライじゃった」
「一貫して反戦。そして平和主義。いまの安保法制なんていう話、寛先生ならば決してなさらなかっただろうなぁと思いますよ……」(同書に掲載されたコメントより抜粋)

 ところが寛は終戦の翌年、持病の悪化などによって51歳の若さで亡くなってしまう。そんな父親を息子の晋太郎は敬愛し、「オレは岸信介の女婿じゃない。安倍寛の息子なんだ」と口癖のように言っていたという。だが、孫の晋三はまったく違った。

 本書で描かれる晋三の生い立ちとその実像は、心底からため息が出てしまうほどの凡庸さだ。小学校から大学までの計16年を一貫して“おぼっちゃま校”の成蹊学園で過ごした安倍首相だが、さまざまな逸話やエピソードに彩られた寛や晋太郎とは対照的に、同級生や恩師らをいくら取材しても特筆すべき逸話やエピソードが晋三にはまったくない、と青木は書く。

〈特に感性が研ぎ澄まされ、よかれ悪しかれ既存秩序への懐疑や反発なども強まる少年期から青年期にかけての逸話が、晋三にはほとんどない〉〈エピソードらしいエピソードが、皆無に近いのである〉

 周囲の人々から語られるのは“凡庸で、お行儀がよく、優しいいい子”というありきたりな人物評のみ。しかも興味深いのは、現在の政治姿勢をうかがわせる気配も、それを支える知識を吸収した様子も、まったく感じられないというのだ。

〈少年期から青年期にかけての晋三に政治志向の気配はほとんど感じられない。岸の孫であり、晋太郎の息子だということは周囲も十分認識していたが、私たち訪ね歩いた同級生の中にも、晋三から政治への意気込みはおろか、政治志向的な話を聞いた者は皆無に近い。ここでも語られるのは、ごく普通で何の変哲もない良家の子──つまりは、ごく凡庸なおぼっちゃまの姿である〉(本書より)

 それは成蹊大学法学部に進んだ後も同様だった。驚くべきことだが、指導教授のもと、少人数で学ぶ「ゼミ」では「安倍くんが発言をしたのを聞いた記憶がない」(成蹊大の元教員)と言われるほどで、周囲にこれといった印象を残さず、存在すら忘れられているケースさえあったという。
 
 それだけではない。本書では安倍首相の成蹊大学時代の恩師であり、成蹊大学長まで務めた学園の最高碩学といえる宇野重昭名誉教授が登場し、涙ながらにこう訴えているのだ。

「現行憲法は国際社会でも最も優れた平和の思想を表出しているもの、世界の中で最も優れたものを先取りした面もあるわけです。彼はそうしたことが分かっていない。憲法が何かもわかっていない気がします。もうちょっと憲法をきちんと勉強してもらいたいと思います」

 晋三は幼少期、不在がちな両親に代わり、祖父である岸に溺愛されて育ったことはよく知られた話だ。父・晋太郎の秘書を務めた経験もある。ある意味、政治家として恵まれた環境の中にいたわけだが、しかし晋三は自らの政治的知性や教養を身につけようとせず、そもそも学ぼうという姿勢すらなく、ただただ“凡庸なぼっちゃま”として身近にいた祖父・岸への“憧れ”だけを抱いて成長した。父の後を継ぐ形で政治家になった後も、岸の “政治思想”を後づけのように振りかざし、しかし“昭和の妖怪”と呼ばれた岸のような教養も懐の深さもない。さらに、岸とは真逆の反戦政治家だったもう一人の祖父・寛の存在を拒否し、封印したのではないのか。

 それはまるで現在の安倍首相の“都合の悪いことは無視し、なかったことにする”という姿勢に見事に通じる。

 対極にあった祖父と孫。本書はこのほかにも岸と寛の意外な“邂逅”、晋太郎と在日コリアンとの関係など、安倍家三代にわたる様々なエピソードから、安倍首相の政治姿勢を問うている。いったい安倍晋三とは何者なのか──そんな疑問を覚えている方には必読の一冊だろう。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.11.16 04:32

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