横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」②

自民・維新がカジノ法案成立でさらに関係強化 政界枠組み激変の鍵を握るのは小池都知事!

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「小池ゆりこオフィシャルサイト」より


「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案」が14日の参院本会議と15日未明の衆院法本会議で可決、成立した。民進党や共産党など野党は「日本人の金融資産が海外カジノ会社に流出する“売国奴的法案”」として反対、参院議長不信任案や安倍内閣不信任案を出して抵抗したが、会期が17日まで3日延長され、結局、自民党と日本維新の会などが賛成して「数の力」で押し切られたのだ。

11月30日の審議入りから16日目に成立する“暴走審議”に対して公明党は自主投票を決定、山口那津男代表が反対する異例の事態で与党に亀裂が入る一方、海外カジノ業者の使い走りのような自民と維新の両党の“蜜月関係”が際立った。

 審議入りに慎重な民進党を「バカな政党だと思う」と攻撃してIR推進の牽引車役を買って出たのは、維新代表の松井一郎・大阪府知事。“大阪の田中角栄”と呼びたくなるほどの地元への利益誘導に熱心で、2025年大阪万博誘致で菅義偉官房長官と足並みを揃えているが、候補地「夢洲」(大阪湾の人工島)はIR候補地でもある(前回紹介)。

「大阪万博の遺産(レガシー)がIR」という関係だが、交通インフラ未整備の夢洲に巨額の血税を投じて、海外カジノ業者に賭博場設置予定地を整備して献上する“売国奴的事業”ともいえるのだ。

大阪都構想の住民投票の際、橋下徹大阪市長(当時)は「外国人対象」と訴えたが、今回のIR法案に外国人制限(日本人入場禁止)は盛り込まれず、12日の国会審議で推進派の参考人から「入場者の8割は日本人」との数字も飛び出した。「外国人観光客増加の目玉政策」と強調する安倍首相も橋下氏も、「二枚舌」「国富流出を招く海外カジノ業者の使い走り」と批判されても仕方がない。

 “売国奴4人組”という異名がついても不思議でもない「安倍首相・菅官房長官・松井知事・橋下前市長」は これまでも政局の節目節目で4者面談を繰り返してきたが(安保法制審議の山場など)、今回もIR法案成立9日後の24日にも4者面談が予定されている。「維新切望の大阪万博推進(夢洲へのIR誘致)の見返りに、安倍首相の悲願の憲法改正や国会運営に協力するのではないか」との見方が出るのはこのためだ。

 さらに遡ると、「安倍政権の“産みの親”への特大プレゼントが大阪万博推進」と見方も成り立ちうる。安倍政権が誕生した2012年当時、「大飯原発再稼働に邁進の野田政権打倒」を宣言した橋下氏は飛ぶ鳥を落とす勢いで、「維新の政権奪取の可能性も十分」「うちの選挙区から維新が出たら落選」との声が自民党議員からも出るほどだった。

 その勢いを買って維新は安倍首相に代表就任を要請したが、断った安倍首相は橋下氏との密接な関係を利用して党内で影響力を増して総裁選に逆転勝利、遂に2012年12月、首相再登板に成功したのだ。

 第二次安倍政権誕生の“産みの親”といえる維新に対して、安倍首相が“親孝行”をするのは当然だ。一国の最高権力者が橋下氏と松井氏と何度も面談するのも、維新が切望する地元への利益誘導「大阪万博実現・IR誘致」を政府一丸になって協力するのも、お腹が痛くなって政権を投げ出した“歴代最弱総理”の汚名を晴らしてくれたことへの感謝の気持ちのようにみえるのだ。

 親子関係に匹敵するかも知れない“蜜月関係”を目の当たりにしたのが、11月12日の第二回小池政治塾で講師を務めた選挙プランナーの松田馨氏だ。

「選挙の基礎知識と、政治家を目指す人が確認すべき10のこと」と題して講義したことから、「小池新党の候補者発掘が本格化した」と囁かれているが、松田氏といえば06年と10年の滋賀県知事選に関わり、嘉田由紀子・前知事の当選に貢献した選挙プランナー。少数与党でスタートした嘉田知事(当時)が地域政党を発足させて翌07年の県議会に臨み、自民党を過半数割れに追い込んだ現場を見ていた人物でもある。松田氏が「嘉田県政と同様、独自政策実現には小池新党結成で自民党の過半数割れが不可欠」と知事サイドに助言しても全く違和感はない。

 松田氏は14年の滋賀県知事選では、嘉田前知事後継指名の三日月大造知事ではなく、自公推薦で元経産官僚の小鑓隆史氏(参院議員)の支援に回った。選挙中に出回った「小鑓隆史メモ」(緑風出版『シールズ選挙〈野党は共闘〉』に全文掲載)には「松田さんもひょうひょうとして面白い、いろいろ分析してくれているよね」と登場。メモには「原発に反対する嘉田知事は滋賀の恥」「原発はいるに決まっている」とあったが、小鑓氏は「読んでいない」と釈明するも法的措置は取らず、信憑性は高いと受け取られた。そして「原発推進の経産省出身の小鑓氏VS卒原発の嘉田知事後継の三日月氏」という構図が鮮明になった。

 橋下氏はこの時、かつて大飯原発再稼働に反対したにもかかわらず、“原子力ムラ”の総本山・経産省出身の小鑓氏の街頭演説会に駆け付けてマイクを握ったのだ。嘉田前知事から「小鑓候補は原発推進」と忠告を受けたが、橋下氏は「大阪都構想で世話になっている菅長官に頼まれた」と言って現地入りに踏み切ったという。

 なぜ原発再稼働反対の“旗頭的存在”だった橋下氏が「変節した」という批判覚悟で、原発推進の自民党推薦候補の応援をしたのか。結果的に誕生を後押しすることになった”我が子“のような安倍政権への“親心”とみると、その心情が垣間見えてくるのだ。

 ここで注目されるのは、滋賀県知事選で選挙プランナーを務めた松田氏の助言内容だ。小池新党結成の場合、官邸の依頼に応えて地元への利益誘導を果たす「政権補完勢力」の立場を勧めるのか否か、ということだ。小池知事がIR推進で維新や官邸と連携するのか、それとも距離を置くのかということでもある。

 衆議議員時代に「カジノ(IR)推進議連」のメンバーだった小池知事が、IR推進で安倍政権と足並みを揃える可能性はある。地元選出の菅官房長官(神奈川二区)と連携して、IR候補地の横浜港山下埠頭整備を進める林文子・横浜市長と同じ道を歩むという選択肢である。

 一方、IR法案に山口那津男代表が反対した公明党や、“カジノミクス”と命名して対決姿勢を取った民進党と組んで、安倍政権(自民党)と対峙する選択肢もありうる。都議会公明党が自民党と決別したことや、蓮舫代表が党首討論でIR推進の安倍首相を追及したことも、政権補完勢力とは違う選択の可能性を高める。

 なお松田馨氏の講義内容をネット上で紹介したのは、音喜多駿都議だ。都知事選直後の8月10日、都内のホテルで開かれた「小池新党予備軍が結集か」と言われた「小池知事とともに新しい都政を前進させる地方議員の会」で、「都では審議会の7割以上が公開されていない」「都政最大の問題が情報公開」と強調した若手改革派である。

 また、11月29日の東京五輪4者協議での森喜朗元首相との激論も、政権補完勢力の道を拒む要因となる可能性が囁かれている。有明アリーナ新設予定のバレーボール会場を既存の横浜アリーナに変更したいと提案した小池知事に対し、森元首相が「横浜は迷惑していると聞いている」と批判するバトルが実況中継され、「予算削減を目指す改革派知事VS新設固執の抵抗勢力」という構図が浮き彫りになった。

 しかし4者協議直後(29日)は「要請があれば協力したい」と中立的な立場だった林横浜市長はその後、12月7日の会見で開催困難との認識を示し、有明アリーナ新設を求める競技団体の意向重視を求める文書を出すなど否定的になった。

「地元では『表は林市長だが、裏で仕切っているのは菅官房長官』という見方がありますが、今回の林市長の方針変更については、『小池知事と激論を交わした森元首相と連携する菅官房長官が林市長に横浜アリーナへの会場変更案潰しを働き掛けたのではないか』と囁かれています」(永田町ウォッチャー)
 
 真偽は不明だが、もし菅官房長官の水面下の工作が事実であるならば、激怒した小池知事が安倍政権との対決姿勢を鮮明にするべく、「政権補完勢力」の道を拒否する可能性は一気に高まるだろう。

 自民と維新のゴリ押しによるIR法案成立、森元首相と小池知事の対立激化、そして都議会の自公決別、カジノ法案によって生じた自公連立政権の亀裂が加わり、日本の政治の枠組みが激変する可能性が出てきた。

「維新が政権を奪取か」と言われた2012年、選挙プランナーの草分け的存在の三浦博史氏(「アスク」社長)は「今年の政治は大阪から動く」と予言、実際、維新政治塾を設立した橋下氏が“産みの親”のような働きをして第二次安倍政権が誕生した。

 4年後の2016年、「東京から日本の政治が変わる」という兆しが芽生えてきた。「政界渡り鳥」とも言われて世論の風を読むことでは天下一品の小池知事が今後、どちらの道を選ぶのか。そして、三浦氏を“師匠”と仰ぐ若手選挙プランナーの松田氏が小池新党結成にどう関わるのか。今後の動きが注目される。
(横田 一)

最終更新:2017.11.12 01:48

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