ピーター・バラカン「ベビーメタルはまがい物」発言はおかしくない! ベビメタ批判・経歴がタブーの音楽業界

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ピーター・バラカン オフィシャルサイトより


 先日発売したアルバム『METAL RESISTANCE』が4月23日付の米ビルボードアルバムチャートで初登場39位となり、坂本九以来の快挙とも報道されているBABYMETAL。同じく今月3日には、イギリスのウェンブリー・アリーナ(約1万人キャパの大会場)でのワンマンライブも成功させ、まさに、クールジャパン・Kawaii Cultureの伝道師となっているわけだが、そんなBABYMETALを批評したピーター・バラカン氏がSNSを中心に大炎上に巻き込まれている。

 25日放送の『モーニングCROSS』(TOKYO MX)にコメンテーターとして出演したバラカン氏は、司会者がBABYMETALの世界での活躍を紹介したあとにBABYMETALに関するコメントを求められると、笑いながらクビを横に振り「世も末だと思っています」と発言。また、「日本の文化大使じゃないかと思うんです」という他のコメンテーターの意見にも笑いながら「いやー、そうあっては困るなぁ」と返していた。

 その番組を見ていたBABYMETALのファンがバラカン氏のツイッターアカウントに〈ニュースクロス、ピーター・バラカン含め誰一人ベビメタの事を知らなかった感じ、バラカンも見た目だけでコメントした感じ、ラジオも聞いていたので残念・・歳とると先入観や固定観念で決めつけてしまう。自分もいずれはそうなるのかなw〉とリプライ。それに対し、バラカン氏が〈番組の前からメディアを通じて少しは耳にしていましたが、ぼくは全く評価できません。先入観ではありません。あんなまがい物によって日本が評価されるなら本当に世も末だと思います〉と返したことから炎上が始まった。

 その後、バラカン氏のツイッターにはBABYMETALのファンから〈ライブ映像はご覧になりましたか? ぜひ映像をご覧になってからどこをまがい物と感じるか説明していただけませんか?〉〈器の小さい男だなって思った。まがい物と言われようとも結果として世界で評価されてるから本物だろう〉〈誰かいい耳鼻科紹介してあげて〉などというリプライが殺到した。

 確かに、「まがい物」「世も末」という表現はファンにとってはキツ過ぎると感じるかもしれないが、それにしても、バラカン氏の発言はあくまで音楽批評の範疇を出るものではない。

 そもそも、ヘヴィ・メタルという音楽自体、その過激なサウンドやファッションはもとより、悪魔崇拝や反社会性を露悪的に強調した歌詞などで良識的な人々の眉をひそめさせ続けてきたジャンルだった(目、鼻、耳、口、両腕、両足を失った傷痍軍人の悲劇を描く映画『ジョニーは戦場へ行った』をモチーフにしたメタリカによる反戦歌「ワン」など、社会的なメッセージを表現し評価された一部の例外はある)。

 また、音楽好きのなかでも、ソウルやブルースなどのブラックミュージックを愛聴する人々は、ダンスミュージックとしてのノリ・グルーヴが欠落していることから、メタルを忌み嫌うことが多い。実際、バラカン氏も、中古レコード店「Face Records」のサイト内にあるインタビューでメタルやハードロックについて、「ただ単に速弾きするだけみたいなのは、面白くねえと(笑)。そしてBluesとかの本当に良いギターを聞いているから、それらに比べてそういうのは味が無いと思ってたし。そして、それ以降のLed Zeppelinなどのハードロックもリズムがバン、バン、バンってそればっかりで、それだったらブラックのレコードの中にはもっと良いバンドがいくらでもあるし。それと甲高い声を張り上げて、ズボンがキツすぎるようなヴォーカルのものは駄目でした(笑)」と語っている。

 このような従来のメタル批判の文脈から離れても、バラカン氏の「まがい物」という批評は決して間違っていない。そもそもBABYMETALは、dCprGでも演奏する大村孝佳など一流のプレイヤーをバックバンドに揃え、本格的なサウンドと、その音に乗せて歌い踊る少女たちのギャップを大きな魅力として人気を集めてきた。つまり、指摘するまでもなく、もとからギミックありきのコンセプトである。

 同じメタル好きの間でも純粋主義者のヘヴィ・メタル好きはBABYMETALというコンセプトそのものを忌み嫌っているし、それは決して少数派の意見でもない。

 ただ、そのような声は音楽ライターや評論家などの有識者からこれまでほとんど出ることはなかった。BABYMETALを取り上げてこなかった老舗のメタル専門誌「BURRN!」(シンコーミュージック・エンタテイメント)の広瀬和生編集長が15年3月号のなかで「うちも、プロモーションがあれば別にやってもいいと思っています。ただ、「あれがヘヴィ・メタルなのか?」って言った時に…歌って踊る女の子がいて、バックがメタルっていう…」と皮肉を言ったりはしているが、その他からはほとんどそのような声は出てきていない。

 それどころか、BABYMETALが海外で高い評価を受けるにつれ、メディアが事務所の意向をのんで、彼女らがもともとアイドルグループ出身であるというルーツを隠そうとする動きすら始まっている。周知の通りBABYMETALはそもそも、小中学生で構成されるアイドルグループ・さくら学院内の部活動ユニット「重音部」として結成されたのが始まりだったが、彼女らを表紙巻頭に据えた「ミュージック・マガジン」(ミュージック・マガジン)16年4月号掲載の特集にあるグループの沿革を辿る記事には〈企画ユニットとして始まり〉という一文はあるものの、さくら学院の名前や、もともとはアイドルグループ所属だった事実に関して不自然なほど触れられていない。このことに関しては、ライターの吉田豪氏もツイッターでこのように疑問を呈している。

〈公式プロフィールに入れないのも本人たちが触れないのも全然いいんですけど、『ミュージックマガジン』BABYMETAL特集でグループの歴史を辿る記事が2013年のメジャーデビューから始まってたりと、第三者がさくら学院に触れないまま歴史を語るようになっちゃってるのが不思議なんですよ〉

 BABYMETAL批判やルーツに触れることがタブーになっている背景にはいくつかの理由があるだろう。まず大きいのはBABYMETALが、サザンオールスターズ、福山雅治、Perfumeなどを擁する大手事務所アミューズに所属しているということ。音楽雑誌などへの出稿も盛んに行っているので、編集部やライターがBABYMETALの音楽に対して違和感をもっていたとしても、メディアで表立って批判的な発言をすることは難しい。

 そして、BABYMETALが一気に海外でも評価されるようになり、彼女らを「アーティストとして」のみ評価することこそがサブカルとして正しいあり方のような空気がまん延してしまっているというのも大きな理由だ。前述の「ミュージック・マガジン」や「Quick Japan」(太田出版)が続々とBABYMETALを表紙巻頭に据えて大々的に特集しているが、この現象もまさしくそういった文脈から起きている。

 これらの事情が絡み合い、広いようで実は狭い音楽業界のムラのなかで、BABYMETALの音楽に関する批判はできないような状況がかたちづくられていっているのではないか。

 ピーター・バラカン氏の場合はブロードキャスターとしての顔ももち、完全なる音楽業界の村の中の人ではない。これまでも、音楽業界の現状に対して、歯に衣着せぬ発言をしてきた存在だからこそ、このような本音を言うことができたのだろう。

 しかし、そんなピーター・バラカン氏の発した批評的な意見を今度はSNS上のBABYMETALファンたちが束になって襲いかかった。バラカン氏がこれからどうするかは不明だが、この騒動により、今後、メディアでBABYMETALを批判することがより一層難しくなってしまったのは間違いないだろう。
(新田 樹)

最終更新:2018.10.18 04:04

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