いよいよ佳境『あさが来た』 広岡浅子が訴えていた“軍国主義批判”“反戦”のメッセージは描かれるのか?

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NHK連続テレビ小説「あさが来た」番組ホームページより


 佳境を迎えているNHKの朝ドラ『あさが来た』。『あまちゃん』の最高視聴率27.0%も越え、NHKでは「今世紀最高視聴率も夢じゃない」という声もあがっている。

 先日も追加キャストとして、あさが設立に尽力した日の出女子大学校(実際は日本女子大学校)の卒業生であり、女性解放運動の旗手となった平塚らいてう役を大島優子が演じると発表されたが、じつは実際には、平塚はあさのモデル・広岡浅子を評価しておらず、“自分の手腕に自信満々という態度で押しつけがましい”とエッセイに残しており、このあたりがどのように描かれるのかも楽しみなところ。

 そしてもうひとつ、ドラマで描かれるかどうかが気になるのが、“あさと戦争”のかかわり方。というのも、実際の浅子は晩年、かなり積極的に反戦を訴えていたからだ。

 たとえば、浅子の晩年の活動で外せないエピソードといえば、愛国婦人会への参加だ。愛国婦人会は1901(明治34)年に設立された団体で、満州事変以降は軍国主義色を強めて戦時体制に協力していったが、浅子が参加した当初は戦死した者の遺族などの救済を目的としていた。

 浅子はここでも存在感を発揮し、この愛国婦人会が“上流女性のサロン”化していることに反発。〈ただ「戦争の犠牲となった将兵とその家族にカネを与えてやるだけで十分な社会事業だ」と、安易に考えている者も、少なくなかった〉(長尾剛『広岡浅子 気高き生涯』PHP研究所より)なかで、浅子は「援産場」を大阪に設置。戦争で未亡人となった女性や、戦地で負傷した夫を抱える者たちに、いまで言う職業訓練と仕事の斡旋を行ったのだ。

〈浅子は女性たちが、男の身勝手で堕ちていくのを熟知していた。夫に捨てられると、女たちはその日の生活に困った。困ったあげく、売春に走るしか道のない女たちの境遇を見知っていた。援産場の開設は、社会の底辺にいる女たちを救うための一策だった〉(菊地秀一『広岡浅子語録』宝島社より)

 他方、クリスチャンだった浅子は公娼制度の反対論者で、廃娼運動にも参加していた。愛国婦人会では1904(明治37)年に芸妓を正式会員として入会させたことに批判が巻き起こったが、浅子も同様だった。だがそれは、職業に対する差別意識からではない。浅子はエッセイにこう綴っている。

〈体を売る女を何故責めるのか。彼女達は他に手段が無いからだ。では何故無いのか。それは男達が女子教育の機会を奪ったからだ〉(前出『広岡浅子語録』、以下同)

 ドラマのなかのあさとは違う、もっと強烈な、男たちへの批判的な眼差し。こうした見方は、男たちが主導する戦争に対しても同じだ。第一次世界大戦で連合国に加わった日本、そしてその軍国主義に、浅子は強く異議を唱えている。

〈果して連合国が口に唱えるような軍国主義の撲滅ということが、その戦争の動機であろうか。もしもこの精神に彼らが立っているとすれば、天の神を知らない我が国民はどうするつもりであるか。なんのために戦っているか〉
〈我国当局者の戦争の目的はどうだろう。果して彼らは純然たる天意を行われんがために軍備の拡張をなし、戦争をするというのであろうか。その相間に単なる目先の利益のため、すなわち行き当たりばったりに天下の事をなし、人道を進むというような心事ではあるまいか〉

 さらに浅子は、こうも述べる。

〈我国の有識者、為政者たちや、戦争のために富に酔ったところのいわゆる成金者の多くは、今後の世界においても戦乱は終息しないと信じているのである。ゆえに軍備の拡張、否、国防上の大計画をしなければならないと言っている様子である〉
〈この思想は必ずや、我国民の頽廃を来し、軍国主義の夢に亡びないとも限らない事情が伏在しているのではあるまいか〉

 もちろん、浅子はドラマでも描かれていたように、炭鉱事業に乗り出して軌道に乗せたが、実際にはそれは日清戦争の勝利による特需があってのこと。浅子とて、〈戦争のために富に酔った〉ことがないわけではない。ただ、ここまで踏み込んで国策批判ともいえる軍国主義を否定する女性はめずらしい存在であったはずだ。

 キリスト教信者であることに裏打ちされた、浅子の“平和主義”。象徴的なのは、こんな言葉だ。

〈今後は国の政治であれ、国際間の関係であれ、この軍国主義を捨て、愛をもって互いに仕えあう境地に進まなければなりません。日中間をはじめ、日米間にも永久の平和が結ばれるようにと祈ってなりません〉(「婦人週報」1919年1月17日号)

 浅子が亡くなったのは、この文章が発表される直前のこと。その後、平塚らいてうや、浅子が主宰した勉強会に参加した市川房枝、『赤毛のアン』翻訳者の村岡花子ら“進歩的”な女性たちは、戦争に協力的、あるいは積極的にかかわっていった。浅子が女も戦時体制にのまれた時代に生きていたら、果たしてどんな言葉を遺したか、それはわからないが、“軍国主義を捨て、永久の平和を”というメッセージはいま、この時代にも重みをもって響くものだ。──問題は、現在のNHKに浅子の平和を願うメッセージを伝える気概があるかどうか、だけかもしれない。
(水井多賀子)

最終更新:2017.11.24 08:37

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