ネトウヨ文化人として復活したケント・ギルバートの正体(前)

慰安婦否定、憲法攻撃…ネトウヨ化で再ブレイクしたケント・ギルバートに9条擁護とマルチ商法関与の過去

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ケント・ギルバートオフィシャルサイトより


 今年も残すところ1カ月をきったが、2015年の保守論壇・ネット右翼界隈を振り返ってみると、とりわけ大活躍(?)したのが、アメリカ人タレントのケント・ギルバート氏だ。

 昨年秋から急に「夕刊フジ」などに登場し始め、今年に入ると「正論」「Voice」「WiLL」といった保守論壇誌へ毎月のように寄稿し、右派が喜びそうな安倍首相擁護や日本国憲法否定、歴史修正主義的な主張をエスカレート。『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)、『素晴らしい国・日本に告ぐ!』(共著・テキサス親父/青林堂)、『日本の自立 戦後70年、「日米安保体制」に未来はあるのか?』(共著・西村幸祐/イースト・プレス)、『中国・韓国との新・歴史戦に勝つ!』(共著・室谷克実、石平/悟空出版)と、タイトルと共著者を見ただけで胸焼けしてくるような単行本を次々出版して、こんな差別発言や陰謀論まで連発するようになった。

「慰安婦問題を語るに当たって、慰安婦という呼び方は止めるべきだと思いっています。「戦時売春婦」と改めたほうが良いのではないでしょうか」(『素晴らしい国・日本に告ぐ!』)
「沖縄で反基地運動をしている連中は、必ずしもサヨクというわけではありません。中には「サラリーレフティスト」(おカネをもらって反対運動をする活動家(引用者注:原文ママ))もいるんです。それから日教組の教員も加担しているでしょう。彼らは共産主義者に近い存在なんです。そして日本を憎んでいます」(同)
「噂では、移設反対運動に参加すれば、日当は一口二万円ということです」(『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』)
「(反基地の)デモ隊の日当を中国共産党が間接的ではありますけども払ってます」(テレビ朝日『朝まで生テレビ!』11月27日放送)

 文筆家としてだけでなく、右派の運動への参加や講演なども精力的に行っている。つい先月も、日本会議が主体となっている改憲大集会「今こそ憲法改正を!武道館1万人大会」での講演で「(憲法9条を護らねばならないという)妄想がここまでくるとアヤシイ新興宗教の教義のようです」と発言、大喝采を浴びたし、本サイトが追及したTBSへ報道圧力をかけている安倍応援団「放送法遵守を求める視聴者の会」の呼びかけ人にも名を連ね、記者会見などで積極的に発言している。

 そして、ケント氏は今年、“ネトウヨ文化人の登竜門”こと、あのアパグループ主催の懸賞論文の第8回最優秀賞まで受賞している。アパ懸賞論文といえば、記念すべき第1回(08年)、当時航空幕僚長だった田母神俊雄サンの陰謀論丸出しトンデモ論文が受賞。その後も“ネトウヨのアイドル”こと竹田恒泰氏(第2回)や“尖閣ビデオ流出男”こと一色正春氏(第5回)が受賞している、保守派の歴史学者たちからも呆れられるほど香ばしいアレだ。

 まさに、名実ともに、ネトウヨ文化人の仲間入りという感じだが、しかし、そもそもケント・ギルバート氏といえば、1980年代に人気クイズ番組『世界まるごとHOWマッチ』へ出演、お茶の間の人気者となったいわゆる“外タレ”だ。カリフォルニア州弁護士の肩書もあり、インテリ風のキャラクターを売りとしていたが、当時は、いまのように改憲タカ派的な言動はほぼなかったように思う。むしろ、『関口宏のサンデーモーニング』のレギュラーを務めていたときは、“外国人”という立ち位置を十分に活用したうえでバランスよくコメントするイメージだった。

 実際、当時の著書『ボクが見た日本国憲法』(PHP研究所、1988年)を読む限り、現在のギルバート氏とは180度異なる印象を受ける。たとえば、外国人に対する指紋押捺に関してはこう語っている。

〈いま日本に韓国人が大勢いるのは、日本と韓国の過去の不幸なつながりの結果ですね。僕らは自由意志で来ているけど、何代も何代も日本にいる韓国人は、最初から来たくて来たんじゃないだろうし、帰ろうと思っても、そう簡単に帰れません。(中略)
 自分たちにはちゃんと祖国があるのに、祖国でないこの国になぜいるのか、そのことを日本国政府は無視している〉

 また、かつてケント氏自身が半年間居住したことのある沖縄については、“日本の防衛は沖縄の犠牲のうえでなりたっている”とはっきり述べている。

〈しかし何よりあれだけ軍事施設があると、万が一戦争があった場合、またまた沖縄が日本全国の犠牲になる可能性が高い。このことが一番大きな迷惑ではないかと思います。(中略)
 大都会にいて、安保がどうのこうのとか、自衛隊が憲法違反とか、議論しても、実際にはそういうことが言える平和で安全な生活は、沖縄県民の我慢と忍耐の上にのっかってきたんですからね。
 なんで沖縄だけが日本の犠牲にならなくちゃいけないのかって、沖縄の人はおこっているけど、僕もそう思いますよ〉

 さらに同書では、日本国憲法についても「僕は改正する必要はないと思うな」とすら発言し、憲法9条は「理想」とした上で、「理想は変えない方がいい」と語っている。

 いったい、そんなケント氏がいつの間に憲法9条を「アヤシイ新興宗教」などと言うようになったのだろうか。

 ケント氏自身は、昨年、朝日新聞が慰安婦問題での誤報を認めたことがきっかけだというようなことを示唆しているが、吉田証言の信ぴょう性のなさは前々から指摘されてた事だし、なぜそれだけで、憲法から歴史認識までが180度ひっくり返るのか、説明がつかない。

 というか、ケント・ギルバートという人の過去を振り返ると、“転向”の動機は、そんな純粋なものではないような気がしてくるのだ。

 そもそも、米ユタ州で育ったケント・ギルバートが日本の地を初めて踏んだのは、1971年、当時19歳、モルモン教の宣教師としての来日だった。福岡市など九州を中心に約2年間居住、75年の再来日の際には沖縄に半年間住んだ経験もある。そして、アメリカの大学院を修了し、州弁護士資格を得たギルバートは、東京の国際法律事務所に就職するのだが、彼の運命を変えたのが、前述の『世界まるごとHOWマッチ』への出演だ。

「日本に住んで25年になるけど、この番組がすべての始まりだった。そうでなければ、弁護士のまま、4〜5年でアメリカに帰っていたと思う」(「サンデー毎日」2005年5月22日号/毎日新聞出版)

 曰く、「知人の紹介でたまたま出演することになった」(前同)というが、この時期のギルバートについては、「ケント・ギルバート 滞日14年の『自称国際活躍者』」(「潮」1995年4月号/潮出版社/あわやのぶこ氏・文)というギルバート氏への取材記事が詳しい。CM出演、ドラマや歌、司会役にと、あらゆる誘いを受けたギルバート氏だが、〈テレビに出演しつつ、他のビジネスも展開した〉という。

〈彼は、円での収入を、徐々にアメリカの地元ユタ州に投資していった。その結果、今や自宅の他に計九十三戸の賃貸用アパートを持ち、管理人も三人雇っている。〉

 ケント氏は「たまたま」進出した芸能界で“ジャパニーズ・ドリーム”を掴んだのだ。事実、テレビ出演の全盛期だった88年には、雑誌のインタビューで「(年収は)六千万から七千万くらい」「(自宅の)家賃はひと月百八十万円です」と語っている(「週刊サンケイ」88年3月10日号/産業経済新聞社)。

 だが、ケント氏の野望は芸能界の成功だけではすまなかった。このインタビューで「僕の基本的な考え方は、お金の使い方には二つしかない。消費してしまうか、投資するか」と語っているように、ギルバート氏は様々なビジネスに手を出し始めた。外国人を講師とする英語学習塾「ケント・ギルバート外語学院」の展開、タコスチェーン店「タコタイム・ジャパン」への4000万円の出資、そして前述の母国でのアパート経営などなど……。

 しかし、それらがすべて成功したかというと、そうではなかった。たとえば、「ケント・ギルバート外語学院」は90年に所属していた外国人講師2人が大麻取締法違反で逮捕されるという事件を起こしている。この件を報じた「週刊新潮」90年6月14日号の記事では、同業他社が「あそこはケントを看板にして、成功し、彼に月100万円支払ってますよ。だけど、スタッフの教育ができあがらないうちに生徒が集まってしまった」とコメントしているが、果たして95年に閉鎖。当時の「アサヒ芸能」(徳間書店)95年6月22日号によれば、最盛期は全国で5校、生徒3500人を抱えたが「年を追って生徒数が減少、(略)ビルの家賃も払えなくなるほど事態は深刻化」していたという。

 また「タコタイム・ジャパン」も91年の4月に解散している(「週刊現代」91年3月9日号)。このタコスチェーンはもともとギルバート氏と日産自動車が折半出資したものだったが、記事によれば「タコスが一般に浸透せず、設立時目標100店舗、売上高145億円どころか、一時20店舗あったのが4店舗に。売上高も前年度(90年度)で17億円にすぎなかった」。

 しかも、90年代の半ばから、タレントとしての人気も下降線をたどりはじめ、数少ないレギュラーだった『関口宏のサンデーモーニング』も、97、98年ごろに降板。テレビではほとんど姿を見なくなった。

 そして、このテレビで姿を見なくなった時期、ケント氏はなんとも怪しい商売に関わるようになる。それは、「レクソール・ショーケース」というマルチ商法だった。(以下、後編に続く
(宮島みつや)

最終更新:2015.12.11 11:32

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