“日本礼賛本”を捨て“弾丸海外旅行”に出よう! 偏狭な愛国主義に陥らないために週末バックパッカーのススメ

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我妻弘崇『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(星海社新書)

 ここ1、2年の間、テレビ業界で人気となっているのが海外から見た日本を取り上げる番組だ。TBS『所さんのニッポンの出番』、テレビ東京『YOUは何しに日本へ?』など、主に外国人が日本の文化を称賛する番組など日本文化の素晴らしさを訴えるパターンがほとんどだ。

 日本人が誰かに日本の文化の素晴らしさをアピールしてもらいたいという気持ちはわからなくはないが、しかし、最近の日本はあまりに内向きになっていないだろうか。

 世界中で難民問題が取り沙汰され、文化の多様性を受容すべき状況である今の時代に、首相から若者まで、みんながドメスティックな視点に閉じこもり、「日本は素晴らしい」と自己慰撫にふけっている様を見ていると、それこそ「日本人は大丈夫なのか」と心配になってくる。

 そんな中、ちょっとおもしろい本に出会った。頻繁にアジア圏を訪問しているライター・我妻弘崇氏の著書『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(星海社新書)だ。

 同書が勧めているのは、週末プラス有給数日といった短期間で実行するバックパッカー、弾丸海外旅行だ。もちろん会社をやめる必要もない。バリバリに働いているビジネスパーソンが、働きながらにして、LCCなどを利用して、週末を費やして海外旅行することが、有益であると説いているのだ。

 しかし、ビジネスパーソンが弾丸海外旅行に行くことで、具体的にどんなメリットがあるのだろうか。同書では、このように説明されている。

「・徹底したスケジュール管理能力がつく
・限られた時間内で、目的を持つことの重要性を感じる
・目的を達成するための判断能力・情報収集能力が向上する
・交渉によって、コミュニケーション能力が高まる」(同書より、以下「」内同)

 短い期間で目的を達成し、時間通りに帰ってこなければいけない「弾丸海外旅行」は、予算や期間をきちんとマネージメントする必要があり、現地での臨機応変な行動も重要となる。それらを短い旅のなかで経験することで、おのずとビジネスパーソンとして成長することができる、ということらしい。たしかに、日本にいて、ダラっと日本を褒めているテレビ番組を見ているだけでは、到底これらのスキルを身につけることはできないだろう。

 だが、海外旅行で得られるものは、こういったビジネスにおけるスキルだけではない。世界で、日本人がどう思われているかということを、確認することもできるのだ。

 たとえば、我妻氏がパレスチナに行ったときのこと。別の日本人旅行者が「パレスチナ人は無愛想で良い印象がなかったなぁ」と漏らしていたとき、我妻氏は「当たり前だよ」と思ったという。

「ほとんどお金を使わなかった彼に対して、一体どこの誰が優しく微笑みかけてくるというのだろうか? 全ての国が無条件で親日国ではないし、自分の周りに自分を受け入れてくれる環境があるわけではない。頭にお花畑が咲いているパターンだ」

 おそらく常日頃から“日本の素晴らしさ”ばかりを信じて生きてきたから、海外でごく当たり前の扱いをされただけなのに、“無愛想で良い印象はない”なんてことを口走ってしまうのではなかろうか。

 ちなみに、我妻氏はパレスチナを旅行した際、タクシーをチャーターして2時間ほど郊外までドライブをしたという。

「そのとき運転手が『日本人と韓国人と中国人は、パレスチナの匂いを嗅いで、そして写真に収めて帰る人ばっかりだ。自分たちは満足かもしれないけど、ここに住む我々にとっては観光客とは呼べない』と話してくれて、『なるほど』と膝を打った記憶がある」

 “日本人は世界でも評価が高い”“日本人は世界で愛されている”──そう思って疑わない人もいるだろうが、残念ながらそれは正確ではないようだ。

 言ってみれば、日本国内において、日本は過大評価されているのだ。しかし、その現実に気づいていない日本人は、海外に行って恥ずかしい姿を晒してしまう。

 海外に行かないと、そこで日本人がどう思われているかという現実はなかなか知り得ない。そして、その現実を知ることで、初めて日本に対しての正当な評価を下せるというものだ。これこそ、日本を褒める番組を見ているだけでは、絶対に知り得ないことであり、もしも本当に日本を愛しているというのであれば、海外に行って日本がどう見られているかを確かめるべきなのではなかろうか。

 日本が過大評価されているという点でいうと、治安についても該当するだろう。たしかに、海外には紛争地帯もあれば、犯罪組織の勢力が強い地域もある。日本では、そのような場所が少ないのも事実だ。

 しかし、日常生活における“治安”という意味では、日本にも危険はある。同書では、日本における“ぼったくり”の現状をこう伝えている。

「2015年に入って新宿歌舞伎町でのぼったくり被害が急増していることをご存知だろうか? 昨年1年間で110番通報が約670件だったのに対し、今年は1〜3月だけで約700件と大幅に増えているのだ。なんでも東京オリンピック前に歌舞伎町がクリーンアップされかねないので、その前に荒稼ぎをするお店が増えているからだという」

 そう、この日本でも詐欺やぼったくりが横行しているわけであり、危険なのは海外だけではないのだ。しかも、歌舞伎町といえば、外国人の観光客が多い地域でもある。言わば、日本においても外国からの観光客を騙そうという人々が多くいるわけであり、十分に危険なのだ。

「『暗い夜道を歩くときは注意しろ』『知らない人についていくな』『怪しい言葉をかけてくる奴は無視しろ』、日本にいてもよく言われることだが、それを守れないから日本でもぼったくり被害に遭うわけである。そういった常套句はもちろん海外も同じであり、それを守るだけでリスクは大幅に減らすことができる。極端に怖がってしまう人はそういう場所に行かなければいいだけの話」

 当然の話だが、日本でも危ないところは危ないし、海外でも安全なところは安全だ。日本が特別に治安がいいわけではない。リスクを回避する努力をするかどうかが問題であり、国柄や地域性ばかりのせいにすべきではないのだ。

 そして、日本の過大評価といえばマナーというものもある。日本はマナーが良くて、海外はマナーが悪い、などという声もあるが、長妻氏の著書を読むと、それもある種の偏見だということがわかってくる。各国の文化によって様々であることは間違いないが、日本以上にマナーが良い国も少なくない。たとえば、スリランカ。

「アジアにおける数ある仏教国のなかで、もっとも印象深かったのはスリランカであった。スリランカも上座部仏教に属するのだが、極めて洗練された教えがいたるところに根付いていた。満席のバスや列車にお年寄りや乳幼児連れの母親が乗車すると、必ず誰かが席を譲る。100%の確率で譲るのである。おまけに、譲るのは必ず男性であり、20歳前後の若い成年が率先して席を立つ」

 日本の公共交通機関でも度々話題になる“若者が席を譲らない問題”だが、スリランカではほぼ100%そんなことはないのだ。日本人はこの点を見習う必要があるだろう。

 カンボジアについては、こんな記述もある。

「仏教国特有の温和で親切心のある国民性も素晴らしく、サービス心(人懐っこい)が旺盛というのもカンボジアの魅力の1つだ」
「また宿泊代がホテルの優劣問わず安いという点も挙げておく。チップ目的であろうがなかろうが、サービス精神がとても高く、『そこまでしなくても大丈夫だよ』と思わず言いたくなるスタッフが他の国よりも多い」

 マナーがよくサービス精神旺盛な国は、日本だけではない。アジア諸国には、素晴らしい国がたくさんあるということは知っておいて損はないだろう。

 ちなみに、アジアを語るにおいて、避けることのできない中国については、「別格の存在感を放っていると言わざるをえない」とのこと。

「反日感情が高いと言われる中国だが、ビジネス反日の旗を掲げる人も多く、一貫して反日の姿勢を崩さないのは首都機能のある北京くらい。中国は性格やマナーが異なる北京人、上海人、広東人というように大きく分けると3つの性質があり、さらに細かく見ていくと、気性の激しい湖南人、スマートな感覚を持つ浙江人、お金にシビアな温州人、大人しい安徽人、宗教への信仰が厚い山西人など、エリアによって考え方や気質がまったく別物となる。広東人が上海人を嫌うように多彩な感情が混ざり合っているため、一括りに中国のイメージを決め付けるのはもったいないことである」

 つまり「中国人=反日」というイメージは決して正確なものではないのだ。我妻氏も「中国には中国のお家事情もあるわけで、そういう部分を知るには実際に自分の眼で見てくることが望ましい」と述べているが、日本国内で共有されている中国のイメージを盲信することは愚かな行為と言わざるをえないのだ。

 日本のことだけを見て、日本国内で流通している情報だけを信じることは、世界の真実から目を背けることであり、さらには自己の成長のチャンスを逸することとなる。日本を礼賛するばかりのテレビ番組を見て、都合のいい解釈を受け入れることは、現実逃避にほかならない。ビジネスパーソンとしての成功につながるかどうかはともかく、自己肯定の妄言から脱却し、よりグローバルな視野を持つために週末バックパッカー、弾丸旅行はおすすめかもしれない。
(田中ヒロナ)

最終更新:2015.10.30 09:32

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