“撮影NGの街”飛田新地にNHKのカメラが潜入!“本番行為は暗黙のルールで…”変わりゆく色街の裏事情とは

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『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』(徳間書店)

 先日放送された爆笑問題のレギュラー番組『探検バクモン』(NHK)で、飛田新地へNHKのカメラが潜入し一部で話題となっている。飛田新地といえば、カメラを構えただけで曳き子のオバちゃんから撮影を制する罵声が飛んでくるのは有名な話。爆笑問題らとNHKのカメラが飛田へ赴いたのは、まだ客足もまばらな昼の時間帯だったが、それでもこれはかなり珍しい話だ。

 飛田新地とはどんな場所なのかご存知ない方に念のため紹介しておくと、遊郭からの流れを汲んだ、女性との「本番行為」が行われる「料亭街」だ(詳しい仕組みは後述する)。橋下徹は弁護士時代に飛田の料亭組合の顧問弁護士を務めていたことがあり、2013年、米軍に性風俗店の利用を勧める発言などで橋下が物議をかもしていた時期に、かつてのその関係を外国特派員協会での記者会見で詰問されたこともある。また、かの有名な阿部定も一時期飛田で働いていたことがあるという。

 そんな飛田とはいったいどんな場所なのか。飛田で10年以上も親方(「マスター」と呼ばれることもある)として店を仕切った経験をもつ杉坂圭介氏による著書『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』(徳間書店)を読みながら、ご紹介していきたい。

 まず、同書から飛田の歴史を簡単にさらっておく。

〈飛田新地は、大阪市西成区山王三丁目にある、いまも旧遊郭の名残りをとどめる歓楽街。1918年(大正7年)12月に開業され、日本最大級の遊郭と言われた。(中略)
 戦後は赤線として遊郭の機能を引き継ぎ、半ば公認で売春が行われていたが、1958年の売春防止法施行以後は料亭街に姿を変えた。しかし営業内容は遊郭・赤線時代と変わることなく、料亭内での客と仲居の自由恋愛とすることで、売春防止法から逃れている〉

 売春防止法以後に「ソープ街」ではなく「料亭街」という抜け道を選んだことが、結果として飛田という街を生き残らせた。前掲書から杉坂氏と、飛田での料亭経営の話を持ち込んだ男との会話を引いてみたい。

〈昔は日本橋、難波、梅田界隈にソープランドがあったそうです。しかし、1990年に鶴見緑地で「国際花と緑の博覧会」が開催された際に、「国際都市として外国人に見られたら恥ずかしい」との理由で一掃されました。(中略)
「大阪府警のトップが『大阪府条例により特殊浴場をすべて許可しない』と号令をかけたんや。でも飛田、松島とかの遊郭の流れを汲む新地は、特殊浴場でなく、料亭業だったので摘発されなかったというわけや」
「では一応、飛田は合法なんですか?」
「そうや。基本的には“料亭”でお客と女の子がお茶とお菓子を飲食していたら、偶然にもたちまち“恋愛関係”に陥ってしまっただけなんやから」
「偶然にも、たちまちですか?」
「男と女なんて、そんなもんやろ」〉

 この恋愛関係云々の話は、いわゆる「本番行為」を行う法の抜け道として料亭側が用意したストーリーであって、表立って「合法」と言い切れるのかはグレーだ。だからこそ、前述の橋下徹の件は当時話題となり糾弾されている。とはいえ、その是非について問うことが本稿の目的ではないので、引き続き飛田の裏側に関して読み進めていく。

 店を始めるにあたって杉坂氏は飛田の料理組合と警察に申請を出すことになる。まず、飛田の料理組合に面接に行くのだが、組合は新規参入者を歓迎しているのだという。新規参入があるということは、商売敵が一軒増えるということを意味するわけだが、にも関わらず歓迎するのには他の料亭街が起こした失敗がからんでいるという。

〈「今の飛田の考え方は、店の数増やして集客増やせだから」〉
〈「というのも、松島新地は以前120軒ほど店があったけど、あえて100軒くらいまで減らした。そしたら新地全体が閑散としてしまった。閉める店が増え、客足も減った。それを見てるから、飛田は、店増やせ、増やせなんです」〉

 店を減らしてお客を独占しようとしたら、街の活気がなくなってしまって、逆に客足が減ってしまった松島新地の前例に学んでいるのである。というわけで、組合への加入は難しくはないが、警察への申請はそうはいかない。まず、慣例として過去5年に犯罪歴があった場合許可が出ない。そして、開業資金(約1000万ほどは必要らしい)に関しても厳しく質問される。

〈借金してやりますと言ったら即、話は打ち切りになってしまうそうです。飛田で店をやるのにお金を貸してくれる金融機関などありません。怪しいところからお金を借りてくるしかないわけで、そういうトラブルを起こしそうな人間を、警察が認めるはずがないのです〉

 また、店の内部も厳しくチェックされる。

〈警察は、書類の間取り図が正確かどうか部屋の面積を採寸して確認していました。部屋は正規の六畳以上という規定があるので、団地サイズの六畳では許可が下りません。二階に部屋が五つある店を借りても、六畳以下の部屋があった場合指導が入ります。
「該当する三つの部屋だけ許可します、残りは倉庫とするか、鍵をちゃんと施錠して、使わないようにしてください」
 ほかにもチェックされるのが、電源の位置。勝手に取り替えて場所を変えると、それだけで業務停止になるくらい厳しい。またライトと有線スピーカーの位置などは、図面通りであることが強く求められます。営業開始後に女の子を照らすライトの位置を変えたり増やしたりする場合は、警察に届けを出さなければなりません〉

 飛田で開業するためにはこのようなチェックをクリアしなければいけないわけだが、無事合格し開業した後、親方はいったいどんな仕事をしているのだろうか。勤務後に従業員の女性を家まで送り届けるなどの管理業務はもちろんのこと、一番重要な仕事はスカウトなど人材確保であるという。

 飛田というと、モデルや女優にすぐにでもなれるのではないかというほどの美女が揃っている街と言われている。それは何故なのか。その秘密は「接客時間の短さ」と「サービス内容の単純さ」にある。

〈私が初めてスカウトに成功したヘルスの女の子はこう話していました。
「素股したり、体をなめなくてもいいから飛田のほうが楽でいい。それにいちばんいいのは、見知らぬ男と長時間いなくて済むこと。ほかの風俗は基本時間が60分のことが多いけど飛田は15分がワンセット。嫌いなタイプのお客さんが来ても15分だけ我慢すれば済むんやから、そっちのほうがええやん」
 本格サービスがない代わりに、多彩なサービスでお客を喜ばせなければならないのがほかの風俗の特徴です。40分なら40分、60分なら60分お客に奉仕しつづけなければなりません。いやな男にあたってしまった場合は最悪です。客としてもお金を払ってサービスを受けに来ているのだから元を取ろうとさまざまなことを要求してくる場合があります。それをやんわりかわしたりしながら60分嫌でもすごさなければならないのです〉
〈ソープから飛田に移籍してきた子はこう話していました。
「椅子があってマットがあってお風呂一緒に入ってベッドがあって。とにかく覚えることがたくさんあるし、全身使うから疲れるんです。時間も長いでしょ? 90分は当たり前だし、なかには120分の人もいる。サービスはまだいいとしても、その間、時間をもたせるのが意外と大変なんです。90分間会話なんて続かないですよ」〉

 こういった理由があって、大阪以外の地方からもお客さんが集まる、美女だらけの料亭街・飛田新地ができあがっているわけだが、ただ「美人」なだけではお客さんはつかないらしい。飛田は、開け放たれた玄関の上がり框(かまち)にお相手をする女性従業員と曳き子のオバちゃんが座っており、男性はそれを眺めながら通りを歩き気に入った女性のいる店へ上がっていくという特徴的なスタイルをとっている。この上がり框での所作が売り上げに大きく関わってくるというのだ。では、どんな所作が求められているのか。前掲書におさめられている、売り上げ不振に悩む女性従業員にベテランの曳き子がアドバイスを与えるくだりにその要素が凝縮されているので引いてみたい。

〈「オバちゃん……、なんであの子のほうがつくん……?」
「自分な、どんな美人だって、ただ座って“はい、どうぞ”とやってただけで客つくわけないんよ。よその風俗だったら適当に直した写真を載っけとけば、寝てようが、メールしてようが仕事くる。でも飛田では、実物が玄関に座って愛想ふりまかないとお客さんつかん」
「愛想よくしてたつもりやけど」
「“そこに座って、笑ってください”と言われてもちゃんと笑える子なんか、おらん。どうしても顔が引きつる。そうすると、玄関からは怒っているように見えるんよ」
「…………」
「ここでそんなクールな女を演じていても、お客さんつかん。これまでどんだけ男にもてたか知らんが、飛田に遊びに来るお客さんが求めるんは、自然に出るええ笑顔や」
「どうしたらいいん?」
「慣れるしかない。背筋伸ばして、アゴを引いてニコッとし、お客さんからは絶対、目をそらしたらあかん」
「でも恥ずかしいやん……」
「恥ずかしがるのはええんやけど、目をそらしたらダメなんよ。そしたら大概のお客さん“コイツ、俺のこと、嫌がってるから目を伏せたんかな”と思って、好みであっても上がらなくなる。お客さんを見て、自然にニコッと笑えれば、“この子タイプだから入ろう”となる」〉

 このような上がり框に女性が座るスタイルの飛田だが、昨今の時勢を鑑みて、料理組合では「あまり過激なことはするな」と自主規制があるらしい。呼び込みのオバちゃんも「玄関内」で声をあげることは許容されるが、もしも玄関の外に出て呼び込みをしていたら、見回っている組合の自警団から後日呼び出しを受けて厳しく指導されるなど、厳しい規律を設けている。また、女性従業員の衣装にもこんなルールができた。

〈以前は水着や下着姿で座っている子もいたようですが、最近ではそうした過激な衣装はお客さんへの挑発的な行為と見なされ禁止になっています。未成年に見えるような服も禁止です。AKB48を模した服を着させていた店もありましたが、組合から「あれはAKBのコスプレじゃなくて単なるセーラー服。女子高生に見える」と判断され、いまはどこの店も自粛しています〉

 このような自主規制が行われているのには理由がある。100年近くの歴史を刻んだ飛田という街だが、時代の流れ・周辺事情の激変には抗えない。特に、飛田がある西成区のすぐ隣、阿倍野区では再開発が盛んだ。東京スカイツリー、東京タワーに次ぐ国内3位の高さを誇る超高層ビル・あべのハルカス、大型ショッピングモール・あべのキューズモール、そしてそれらのまわりに次々とタワーマンションが建設されている。これまでの住民とは違う、新たなファミリー層が大量に流入してきた。もしもこれらの人々から街の存在に対しての批判が起きれば、飛田の存在そのものが危うくなりかねない。

〈そこで最近では、「明るく安全な街づくり」を目指してさまざまな取り組みに励んでいます。月に2回、飛田新地料理組合の組合有志、料亭関係者で集まり街の清掃をしていますし、景観をよくするために街全体の照明を明るくしました。風情ある街並みを残していくために道路に敷いているタイルを明治時代風のロマンチックな色使いに変更し、2年ほど前には、1500万円近いお金をかけて老朽化していた公衆トイレをモダンなデザインのものに建て直しもしました。これらはすべて、組合員から集めた月1万7000円の組合費でまかなったものです〉

 どんなに隆盛を誇った街も、時代が変われば何らかのかたちで変化していかなくてはならない。著者の杉坂氏もこう語る。

〈周辺事情の変化をただ見守っているだけでは、いずれ一掃されてしまう日がくるに違いありません。飛田も変わらなければならないのです〉

 この先、飛田新地という街はどのように変わっていくのだろうか。
(田中 教)

最終更新:2018.10.18 05:01

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