AV女優だけでは食べていけない! 制作費が1本10万円? 地盤沈下が続くAV業界の惨状

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近年では蒼井そらなど数々のスターを生み出してきたAV業界も苦しい状況が続き…(画像は蒼井そら『「そら模様」』講談社より)

 雑誌やネットなどのメディアで“AVネタ”は鉄板の大人気コンテンツだ。雑誌では、ヌードグラビアはもちろんのこと、「TV Bros.」(東京ニュース通信社)に蒼井そら、「週刊実話」(日本ジャーナル出版)に瑠川リナと、AV女優による連載も多い。また、ネットニュースに掲載される人気AV女優に関連した記事は圧倒的な閲覧数を誇り、紗倉まなにいたっては、トヨタ自動車が運営する情報サイト「GAZOO.com」に連載をもち、AV女優と世界のTOYOTAがコラボレーションするという衝撃の展開も起きた。

 さらに、最近ではAV男優のしみけんが『ゴッドタン』(テレビ東京)に出演したり、カンパニー松尾監督による映画『劇場版テレクラキャノンボール2013』が1万人を動員するスマッシュヒットになるなど、女優だけでなく、男優や監督にもスポットライトが当たっている。加えて、2014年には、早稲田大学で、ソフト・オン・デマンド、TENGA、MOODYZ、ティーパワーズの4社による合同就職説明会が行なわれたことも大きな話題となった。

 1980年代初頭に、“アダルトビデオ”というメディアが生まれて以来、いよいよ、AVがお茶の間に浸透しようとしている昨今だが、数年前から各メディアで指摘されていたように、その人気っぷりとは裏腹にAV業界は未曾有の不況にさらされている。ここまでなんとかもちこたえてきたが、もうもたないのではないかと噂されているのだ。

 では、業界はどれほどの危機的状態に陥っているのか、細かく見ていきたい。まず、映像ソフトの売り上げを調べてみた。映像コンテンツの主な流通経路としては、レンタル・セル・動画配信の3パターンがあるが、そのうちレンタル市場の激減が著しい。

「JVAレポート」(日本映像ソフト協会)2015年6月号によれば、レンタルの市場規模は08年の3469億円から14年には2103億円まで減少。セルの市場も2832億円から2287億円に下がっているのだが、それにしてもレンタルDVDの規模縮小はすさまじい。その補填をインターネット動画配信の売り上げでまかなえているかといえばそうでもなく、14年の時点でわずか614億円と、動画配信サービス利用者も少ないというのが実情だ。ちなみに、業界全体の売り上げとしては、08年の6301億円から、14年には5004億円まで下がってしまっている。

 では、7年間で545億円減と、1366億円減のレンタルに比べたら健闘しているセルの市場も安定しているかといえば、そんなことはまったくない。この健闘を支えているのは、“タイトル数の激増”という諸刃の剣だからだ。

 各種報道を見ていくと、1992年にはわずか年間4000タイトルだったのが、2008年には少なくとも月1000本以上、そして、今では月間2000~2500本以上のタイトルが発売されているという。各メーカーが制作費の安い作品を次々と出し、1本当たれば儲けものという考えで企画モノを濫造しているのだ。

 なぜ、このようなタイトル数の激増が始まったのか? それは1本あたりのAVの売り上げが落ちているからだ。

「週刊ポスト」(小学館)12年4月20日号の記事ではAV監督の松本和彦氏が「ひと昔前は黙っていても1タイトルで2万~3万本は売れた。今は10分の1で、2000~3000本です」と語っている。

 ただ、松本氏が出した「2000~3000本」というのは業界ではもはや“ヒット”のライン。“1000本行けばまだマシ”“500本売れれば採算が取れる”、といった予算感覚でつくるのがいまや普通なのだという。

 しかし、この数字ですら、現在のAV業界では超えるのは楽ではない。そのため使われているのが、撮影会や握手会などの接触商法。AKB48グループなどでおなじみのあの手法がAVでもとられているのだ。「アサヒ芸能」(徳間書店)15年5月14日号では、AV女優の北条麻妃も「今や毎週、秋葉原でイベントもやってるし、ファンからしても「会いにいけるAVアイドル」なんです」と現状を語っている。

 ここまでかなり厳しい状況を並べてきたが、1本1本の作品が売れていないのに、発売するタイトル数が増えているということは、当然、“制作費の減少”も起きている。

 前出の「週刊ポスト」では松本和彦氏が「15年前には1本撮るのに1000万円の制作費をかけたこともあった。今はその10分の1がせいぜい。なかには10万円で作っているものもある。それは女優や男優のギャラだけじゃない、DVDのプレス代やモザイク処理、パッケージデザインも含めての金額だからね」と嘆く。

 制作費が少なくなれば、当然、出演者へのギャラも減る。アダルトビデオの主役である、AV女優へのギャラも激動した。80年代後半に活躍したAV女優・小林ひとみのギャラは1本1000万円という噂もあったほどのAV業界だが、現在ではどうなのか……?

「宝島」(宝島社)12年5月号で、AV女優専門プロダクション「株式会社ハスラー」代表取締役のMyu氏は、以下のように凄惨な現状を憂う。

「ギャラに関して言えば、特定のメーカーと一定期間出演契約を結ぶ単体女優の場合、昔は1000万なんて契約もあったけど、今はないでしょうね。ウチの話じゃないですが、女優によっては単体でも月30万なんて子もいるようです。(中略)正直AVのギャラだけで食べていけている子のほうが少ない。名前も出ないレベルになれば1日拘束されて事務所に1本5万とか。それですら仕事があればいいほう。そんな時代です」

 AVだけで食べていけないなら、当然副業に励まなくてはならないが、彼女らの主な副業先は、AV女優が所属していることを謳う風俗店やキャバクラだという。親族や友人への顔バレの危険性を背負っても、もはやAVで得られるギャラだけでは生活できず、AVを副業のための宣伝ツールにせざるを得ないという現状がそこにはある。

 なぜ、このようなことになってしまったのか? その最も大きな要因として、巷間言われている通り、インターネットの違法動画サイトに作品が無断でアップされてしまう現状があるだろう。

 ただ、業界も手をこまねいて見ているだけではない。13年には、SODクリエイト、桃太郎、プレステージなど有名AVメーカー7社が、著作権を所有するAVを無断で公開したとして、FC2に対して6500万円の損害賠償を求める訴えを起こしている。

 ただ、現在のインターネットの状況をご覧いただければ分かる通り、残念ながら、そのような行動も決定的な抑止効果を生むことはできていない。
 
 現在は、“若者の草食化”“秋葉原カルチャーの隆盛”などの要因が絡まって、そもそも若者はAVを見なくなっている。AVの購入者の年齢層は10年前より10歳上がったと言われており(近年の“熟女モノ”ブームはその影響でもある)、今後、現在のAV主流購買層である中高年がアダルトビデオに親しまなくなったとき、それでもまだAV業界が存続できているかどうかは微妙だ。

 悲しいことではあるが、かつて、ひとつの“サブカルチャー”として大きなうねりをつくった“アダルトビデオ”も、時代の流れのなかで、いま、その役目を終えようとしているのかもしれない。
(田中 教)

最終更新:2018.10.18 03:47

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