今度は障がい者差別? ホリエモンは「冷淡な新自由主義者」ではなくたんに頭が悪いだけなのかもしれない

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「堀江貴文サロン」オフィシャルページより


 何かと問題発言の多いホリエモンこと堀江貴文氏だが、今度は障がい者差別発言をしたと話題になっている。

 発端はホリエモンが8月20日、ツイッター上のユーザーとのやり取りの中で、〈生産効率の悪い人を無理やり働かせる為に生産効率のいい人の貴重な時間が無駄になっているのだよ〉とつぶやいたこと。これに対して、あるユーザーが〈障碍者の人達にも社会貢献したい人は多いですよ。その場を経済活動労働に求める人も当然います、作業だろうがなんだろうが〉と疑問をぶつけた。

 すると、ホリエモンは〈それは勝手にやってくれ。ただその多くは社会的にはプラスにはならないよ。したいならやり方を考えよう〉と返答。この発言が障碍者差別だと批判されたということらしい。

 もっとも、当の堀江氏は同じくツイッターでこう弁明している。

〈あのさ俺差別発言なんかしてねーよ。障害者だろうが健常者だろうが働いたらその分社会が損する奴がいるって書いただけ〉
〈多分頭の悪い読解力のない奴が勘違いしてそういう風に書いてんだろ。障害のあるなしと仕事のパフォーマンスはあんまり相関性ないよ。クズは障害がなくてもクズのまま〉

 たしかに、ホリエモンの最初のツイートは障がい者を想定したものではなかった。しかし、途中で、障がい者だって社会参加への機会を求めているというユーザーの問題提起に対して、「その多くは社会的にはプラスにはならないよ」と語っており、これは差別と受け取られてもしようがないだろう。

 ただ、今回のホリエモン発言は、差別かどうか以前の問題だ。ホリエモンは一連のツイートの中で、障がい者も健常者も、とにかく生産効率の悪い人間をクズだと言い切り、働かない方が社会のためだ、として、社会参加を否定しているのだ。

 そもそも、働く人間の能力や価値というのは単純に判断できるものではなく、環境や職種、役割によって大きく変わる。それを生産効率などという言葉で二分化し、労働の機会を奪うというのは、ありえない暴論だろう。

 しかも、ホリエモンは「仕事の機会を奪われた人たちが何をして食べていけばいいのか」というユーザーの問いにこう答えている。

「生活保護もらって呑気に生きればいい」「だから生活保護の拡張でベーシックインカムだよ」

 生活保護を拡充するのは賛成だが、しかし、だからといって、人が金さえもらえれば、働く機会、社会に参加する機会を奪われても「呑気に生きられる」とこの男は本気で思っているのだろうか。だとしたら、他者への想像力が決定的に欠けているとしか思えない。

 実は、この他者への想像力の欠如という問題はホリエモンのこれまでの言動にもしばしば見られてきた。

 たとえば、作家で尼僧の瀬戸内寂聴との対談本『死ぬってどういうことですか? 今を生きるため9の対論』(角川学芸出版)でも、ホリエモンは、戦争の危機を訴える瀬戸内に対して、「戦争なんて起きないですよ」と言いつつこううそぶいた。

「僕は、(中略)戦争が起こったら、真っ先に逃げますよ。当たり前ですよ」

 これに驚いた寂聴は「どこに逃げられる? 逃げる場所がある?」と聞くが、ホリエモンは「逃げる場所あるでしょ。第三国に逃げればいいじゃないですか」と、淡々と返す。

 そして、寂聴から「行かれない人はどうするのよ」と突っ込まれると、ホリエモンはこう言い放った。

「行かれない人はしょうがないんじゃないですか?」

 つまり、ホリエモンは戦争が起きても海外で生活する能力のない弱者、災害が起きても土地を離れることのできない老人や貧困層がいるということにまったく想像が及んでいなかったのだ。

 今回も同じだ。いかに効率の悪い働き方しかできなくても、機械で代行できる単純労働であっても、自分の出来る範囲で仕事をし続けることで、社会や他者とつながり、小さな自信と生き甲斐を得ている人がいることを、ホリエモンはまったくわかっていない。そして、そういう人が“クズ”の烙印を押されて働く機会を奪われたら、いったいどんな絶望に陥るかも、一切考慮していない。

 しかも、「生産効率の悪い人間は働かないほうがいい」というホリエモンの提唱するやり方は、たんに個人を傷つけるというだけではない。ホリエモンの主張とは逆に、社会にマイナスをもたらすものだ。

 それは、女性の社会進出を考えれば明らかだろう。かつて多くの企業は女性は結婚や出産があるから生産効率が悪いと判断し、働く機会を奪ってきた。しかし、今はどうだろう。女性が働く機会を得たことで、明らかに新たな商品、新たなマーケットが生まれ、経済を牽引する存在になっている。

 それと同じで、本当は環境や役割によって価値や能力を発揮したり、組織を活性化させる可能性があるのに、一方的な判断で働く機会を奪っては、社会にとって有用な人材をみすみす逃してしまうことになりかねない。

 また、価値ある仕事をする者と、クズの烙印を押されて生活保護で生活する者に社会が二分化されれば、明らかにそこに階級と差別が生まれ、憎悪と対立が噴き出すだろう。これは、テロや犯罪の増加を引き起こし、社会を不安定化させる大きな要因になる。

 言っておくが、世界とは、ホリエモンが考えているよりもはるかに複雑で不確実で、多様な可能性をはらんでいるものなのだ。個人の実存や感情も想像以上に大きな作用を社会にもたらす。

 実際、社会学の分野でも、20世紀にタルコット・パーソンズが唱えていたような社会システム論は「個人が抱える実存の意味を無視している」「個人はどれだけ社会から影響を受けながらも完全に規定されることはありえない」「社会はスタティックなものでなく「不断の運動状態にある」と、とっくに否定されていたのではなかったか。

 ホリエモンが言うような単純な図式に無理矢理であてはめても、なんの問題解決につながらないことは、ちょっと考えればわかることだろう。

 そう考えると、ホリエモンのことを、「冷淡」「強者の論理」「新自由主義者」と批判するのは的外れで、実際はたんに頭が悪くて教養がないというだけなのかもしれない。世界の複雑さを受け入れられずに、ものごとを単純化しないと説明できない。そして、教養のなさをカバーするために、やたら「経済効率」だのなんだのというリバタリアン経営者的言葉をふりまく。

 そういえば、最近、もうひとつホリエモンのそういうやり口を感じるツイートがあった。それは、8月13日、山本太郎議員が自身のブログで川内原発再稼働に触れ、安倍政権のやり方を「お花畑かっ!」と批判したことに対して、こう返していたことだ。

〈お前の頭の中がお花畑やん〉
 
 おそらく、原発推進論者のホリエモンとしては、山本が非現実的な“放射脳”だとからかいたかったのだろう。しかし、少なくとも山本のこのブログでの主張については、その批判はまったくあてはまらない。

 というのも、このブログは政府が危機管理体制を整備しないまま原子力ムラの利権のために川内原発を再稼働させたことに疑問を呈する内容で、周辺住民の「避難ルート」が津波で利用不可能になることなどを具体的かつ論理的に指摘したものだったからだ。

 これのどこが「お花畑」なのだろう。実際、ホリエモンは一切、具体的な指摘をすることができていない。ようするにここでも、「俺はリアリストだ」というポーズをとっているだけで、実はほとんど中身がないのである。

 自己ブランディングと単純な“言い切り”で、今もネットでは圧倒的な人気をもつホリエモン。しかし、ネットユーザーはそろそろ、その正体に気がつくべきではないだろうか。
(宮島みつや)

最終更新:2015.08.26 10:44

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