『報道特集』だけでなく「朝日新聞」もようやく慰安婦の軍主導の証拠を報道! 歴史修正の動きは止められるか

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朝日新聞も再び立ち上がった(イメージ画像は『朝日新聞』2014年8月5日朝刊より)


 昨日、本サイトでも報じたように『報道特集』(TBS系)の慰安婦問題特集が大きな反響を呼んでいる。太平洋戦争時代、インドネシアで日本軍が主導して慰安所をつくり、強制的に現地の女性を徴用していた事実を、さまざまな証言や資料から改めて突きつけたのだ。

 しかも、そのなかには、中曽根康弘元首相が海軍主計長時代に「土人女を集め慰安所を開設」したとする戦時史料も含まれており、安倍政権に少なくないダメージを与えることになった。

 というのも、安倍政権は最近、自民党内に「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」なる組織を設置。海外に向けて慰安婦問題の軍関与や強制性否定と慰安婦像の撤去などを働きかける方針を打ち出し、その委員会の特命委員長に中曽根元首相の息子である中曽根弘文参議院議員を就けていたからだ。

 おそらく、今後、日本政府や自民党がどんなロビイング活動をしようが、海外では、息子が父親の“戦時性暴力”を隠蔽するために動いているとしか受け取られないはずだ。そういう意味で、この日の『報道特集』は“あったもの”を“なかったことにする”歴史修正の動きを食い止める貴重な役割を果たしたと言っていいだろう。

 それにしても、なぜ、『報道特集』はいまになって、こうした報道に踏み切ったのだろう。

 昨日の記事でも指摘したが、中曽根元首相の慰安所開設問題は1年前、吉田証言をめぐって朝日新聞バッシングが吹き荒れているなか、本サイトが防衛研究所の資料に直接あたって記事にしていた。これは軍の関与と強制性を裏付ける客観的証拠であり、吉田証言が虚偽だからといって、日本の責任は変わらない、と。

 しかし、当時はすべてのメディアが朝日バッシングに走り、慰安婦問題への軍の関与、強制性を報道することは完全にタブーになっていたため、新聞・テレビでこの事実は一切取り上げられなかった。

 それが、ここにきて、『報道特集』が慰安婦問題への軍関与を報道できたのは、やはり、潮目が変わってきているからだろう。安保法制の強行採決で安倍政権の危険な体質に世論も安倍政権への反発を強め、メディア内でも相次ぐ言論弾圧事件で安倍政権への危機意識が広がった。そうした空気に後押しされるかたちで、一部の良識的な記者が安倍批判や慰安婦タブーに踏み込むことができるようになった。

 実際、『報道特集』だけでなく、吉田証言の虚偽を謝罪して以降、口をつぐんでいた当の朝日新聞も、その少し前に慰安婦問題の本質を検証する重要な記事を出している。

 7月2日付朝刊に17面の1ページを使って掲載されたその記事のタイトルは、「【慰安婦問題を考える】「慰安所は軍の施設」公文書で実証」。日本近現代史家である永井和・京都大学大学院教授へのインタビューを中心に、「河野談話以降」の慰安婦関連研究の現状を記したもので、警察や軍の公文書など13の資料を引用しながら、慰安所が日本軍によって設置された施設であったことを実証的に明らかにしている。その内容を紹介しておこう。

 まず、慰安所が作られた経緯だ。1996年に警察大学校で発見された複数の公文書は、日中戦争開始直後、日本国内の行政を担う内務省の警保局が慰安婦の募集や渡航に関する報告をしていたことを示している。たとえば、その公文書のうちのひとつ、上海総領事館警察署長が長崎水上警察署長に送った依頼文では、「前線各地における皇軍の進展に伴い」、「施設の一端として前線各地に軍慰安所」を「設置することとなれり」と記されている。永井教授はこう解説している。

「まず37年12月、中国に展開した中支那方面軍で『将兵の慰安施設の一端』として『前線各地に軍慰安所』を設置するよう定められました。上海の日本軍特務機関と憲兵隊、日本総領事館が業務分担協定を締結。軍の依頼を受けた業者が日本内地と朝鮮に派遣され、『皇軍慰安所酌婦3千人募集』の話を伝えて女性を集めました」

 ようするに、日本軍と警察、領事館が中国戦線の前線に慰安所設置を命令し、業者に女性収集を要請していたのだ。しかも、この命令の事実は地方の警察には秘密にされていたらしい。

 それを示すのが、当時の和歌山と群馬の県知事が、内務省警保局長や内務大臣、陸軍大臣に宛てた複数の文書である。いずれも業者による女性募集を問題とするもので、とりわけ和歌山では、「時局利用婦女誘拐被疑事件ニ関スル件」という文書名からわかるように、当初、不審な者たちが女性を連れ去る誘拐の線を疑っていたようである。

「和歌山県の警察は『軍の名をかたり売春目的で女性を海外に売り飛ばそうとしたのではないか』とみて、刑法の国外移送目的拐取の疑いで業者を取り調べました。しかし大阪の警察に問い合わせた結果、軍の依頼による公募とわかり、業者は釈放されています。大阪など一部の警察には事前に内々に軍からの協力要請が伝えられていたのです」(永井教授の談、朝日新聞より)

 こうした国内での経緯があって、38年2月、内務省は軍の要請にもとづく慰安所従業婦の募集と中国渡航を容認するよう通達し、また、軍との関係を隠すよう業者に義務づけた。これも内務省から各庁府県長官に宛てた文書から明らかになっている。さらに同時期、陸軍省副官から北支那方面軍および中支那派遣軍参謀長にあてた依命通牒では、女性の募集にあたっては地方の憲兵や警察当局と連絡をとるよう、中国駐屯の日本軍が命じられていた。つまり、業者は好き勝手に売春を斡旋していたわけではなく、行政の方針や軍命のもと庇護され、超法規的に慰安婦となる女性を調達していたのである。

 そして、この特集記事で注目すべきは、永井教授が2004年に発見した「改正野戦酒保規程」(37年9月29日付)という資料である。これは、陸軍大臣から陸軍内に通達された公文書で、その内容は、軍隊内の物品販売所である「酒保」に「慰安施設を作ることができる」との項目を付け加えていた、というもの。つまり、わざわざ慰安所設置のために軍の規定を変更していたわけだ。

 これは、慰安所が民間ではなく軍の施設であることを裏付ける証拠のひとつとなる。たとえば産経新聞は社説や同社発行の保守系雑誌「正論」誌上で、慰安婦は「民間業者が行っていた商行為」で「自ら志願した娼婦」などと主張しているが、上記の公文書などの存在を(おそらくはあえて)無視した言説だろう。しかも産経が悪質なのは、他ならぬ鹿内信隆・元産経新聞社長が著書で、陸軍経理学校時代に“慰安所のつくりかた”を教わったと証言していることまで、知らぬ存ぜぬを突き通していることだ。鹿内元社長は、桜田武・元日経連会長との対談集『いま明かす戦後秘史』(サンケイ出版)のなかで、はっきりとこう言っている。

「(前略)軍隊でなけりゃありえないことだろうけど、戦地に行きますとピー屋(註:慰安所のこと)が……」
「調弁する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの“持ち時間”が将校は何分、下士官は何分、兵は何分……といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが『ピー屋設置要綱』というんで、これも経理学校で教わった」

 事実、本サイトでも既報のとおり、靖国偕行文庫に所蔵されている、陸軍経理将校向け教科書『初級作戦給養百題』にも「慰安所ノ設置」が業務のひとつとして記されている。永井教授が発見した「改正野戦酒保規程」に、上述の鹿内氏の証言……どうみたって、これらは一つの結論を導き出すだろう。永井教授は朝日新聞紙上で、このよう結論づけている。

「慰安所は民間業者が不特定多数の客のために営業する通常の公娼施設とは違います。軍が軍事上の必要から設置・管理した将兵専用の施設であり、軍の編成の一部となっていました」

 こうして、当時の公文書と突き合わせると、「慰安所は民間による売春施設で軍は無関係だ」という言説は明らかに無理があることがわかるはずだ。だが、歴史修正主義者たちは、朝日新聞が吉田証言に関する記事を撤回したことにつけこんで慰安婦問題全体を“なかったこと”にしようとしたのだ。そもそも、従軍慰安婦に関する外国の調査報告などでは、吉田証言を根拠にするケースはほぼ皆無か、あるいは引用したとしても「信用性には疑問がつけられている」という旨の注釈的扱いがなされているにもかかわらず、それを、あたかも慰安婦問題での軍関与は「吉田証言」が根拠であったかのようにミスリードした右派のやり口は、明らかに公正ではない。

 そういう意味では、今回、朝日新聞が現在までの慰安婦研究を総括し、日本軍の関与を裏付ける公文書の存在を列挙したことは、大きな意味がある。

 しかし、一方で、やはり遅すぎだという思いもないわけではない。今回の特集記事で解説されている事実は、昨年の段階でも十分に“河野談話以降の研究成果”としてあげられていたものだ。しかし、朝日は世論の反発を恐れて、この間、慰安婦問題の真相追及をずっと封印してきた。社内では、吉田証言での謝罪の際に、チームを組んで軍の関与と強制性を追及する報道をすべきだという意見もあがったが、却下されてしまったという。

 いや、朝日だけではない。繰り返しになるが、他のリベラルメディアも自分たちが朝日の二の舞になることを恐れて、慰安婦問題の検証をタブー視してきた。一方で、勢いづいた保守系メディア、評論家、ネトウヨたちが「従軍慰安婦自体が朝日の捏造だった」「慰安所は民間売春施設で娼婦が自由意志で志願した」という言説を喧伝。その結果、一般の人たちの間にまで慰安婦そのものがデマという誤解が広がっていったのである。

 しかも、現在も状況は完全に好転したわけではない。中曽根の関与はTBSのなかでももっとも地味な報道番組である『報道特集』が追及しただけで、他の番組、放送局、新聞が追いかける気配はない。朝日も今回の特集記事に1ページ丸々使っていたとはいえ、目立たない中面での掲載。一面には導入の記事もなかった。

 これから始まる戦後70年のさまざまなイベントでも、安倍首相はアメリカには恭順の意を示してアジアと国内では強気、という二枚舌作戦で歴史修正主義を推し進めてくるだろう。

 慰安婦問題、侵略戦争の責任を検証する動きがもっと広がらないと、この戦争肯定の流れを押しとどめることはできない。
(梶田陽介)

最終更新:2017.12.03 02:37

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