神戸か伊勢か広島か? サミット会場選定で安倍首相お気に入りの警察官僚が“暗闘”

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今国会で党首討論にのぞむ安倍晋三首相(安倍晋三Facebookより)


 いま、新聞・テレビ各社の政治記者たちがしのぎを削っているのは、意外にも、国会論戦が続く「安保法制」ではない。国民の関心が集まる重大案件を脇に置くとはとんでもない話だが、大手マスコミが躍起になって追いかけている焦眉のテーマとは、来年夏、日本政府が主催する「サミット」(主要国首脳会議)の会場選びだ。政治ウオッチャーが解説する。

「殺害されたフリージャーナリスト・後藤健二さんの人質交渉をめぐって、安倍晋三首相がイスラム国を敵視する行動に出たのはご承知の通り。そのあおりで、欧米主要国と一緒にターゲットにされた日本政府は、サミット会場を国内のどこに置いたらテロリストから首脳たちを守ることができるのかと、ヒヤヒヤしながら選定作業を続けているよ」

 名乗りを挙げているのは、仙台、新潟、長野・軽井沢、浜松、名古屋、三重・伊勢志摩、神戸、広島の8カ所。選定作業のタイムリミットは、今年のドイツ・サミットが始まる6月7日だ。最終コーナーにさしかかったこの1週間がスクープ合戦のヤマ場。実際、5月31日付けの産経新聞は先陣を切って「仙台、志摩、広島 首相、サミットの開催地絞り込み」と打ってきたが、的を絞り込めていないところをみると、官邸のリーク情報がまだ心許ないのだろう。

 本サイトには、「会場は神戸市で決まったようだ」という最新情報も舞い込んでいるが、いずれにせよ、会場選びの結果は政府発表を待てばいいだけの話。それよりも興味深いのは、選定作業の裏側で、安倍首相お気に入りの警察官僚たちが激しく蠢いたという暗闘劇のほうだ。なんとこの騒動、1年近くにわたって繰り広げられてきたからである。

 その一端を、会員制月刊誌「FACTA」(ファクタ出版)5月号がレポートしている。記事のタイトルは「後出し『伊勢志摩サミット』急浮上」。雑誌発行当時、軽井沢や神戸などの有力候補地を出し抜いて、三重県の伊勢志摩エリアが立候補締め切り後に名乗りを上げて有力候補に浮上したいきさつに照準を置いているが、警察官僚たちの暗闘劇もつぶさに紹介している。

 問題の選定作業はまず、昨年8月までに伊勢志摩をのぞく7つの自治体が名乗りを上げ、主催官庁である外務省に誘致計画書を提出したところからスタートした。外務省と警察庁は、昨年末までに現地の視察を済ませていたという。官邸詰め記者がこう解説している。

「警察庁は、警備面を重視した前回(2008年)の北海道洞爺湖サミットにならって、周囲を山に囲まれ、外敵が侵入しにくい軽井沢、次の浜名湖畔の浜松市が適地と見ていた。一方、外務省は各国首脳をもてなす施設の格式を重んじ、近くに随行団の宿泊施設やメディアセンターがある神戸、軽井沢、名古屋を推していた」

 その結果、外務、警察双方から高い評価を受けた軽井沢が最有力候補に。次いで神戸が猛追したのだという。神戸市の場合、市長の久元喜造氏は、震災大国の復興例として神戸を世界にアピールできるとみて立候補に踏み切った。しかし、難点とされたのが警備上の不備。そこで一計を案じたと、警察庁詰めの記者が打ち明けている。

「今年1月、警察庁長官を退任したばかりの米田壮氏を神戸市の顧問に迎える異例の人事に打って出たんだ。久元市長とは灘高校、東大法学部の同窓の仲。しかも、米田氏と親しい内閣情報官の北村滋氏も、兵庫県警本部長経験者の立場から理解を示したという話もついて回った。2人の警察大物OBの登場で、神戸はがぜん、有力候補に浮上した」

 北村情報官といえば、“官邸のスパイ組織”と評される内閣情報調査室のトップとして、永田町内外のスキャンダルを収集し、安倍首相に御注進している側近中の側近。歴代の情報官といえば、首相への“ご進講”と呼ばれる定期報告会は週1回と決まっていたのに、北村氏はこれを倍の週2回に増やしたばかりか、ほぼ毎日のように首相と面会しているのだ。

 ところが、同じ1月、三重県が名乗りをあげたことで、潮目が変わる。ここでも、警察庁出身の大物の関与が取り沙汰されている。サミット警備の責任者となる内閣危機管理監の西村泰彦氏(前警視総監)だ。

「西村氏は、三重県の名門伊勢高校の俊才で、伊勢志摩エリアの魅力を熟知している。各国首脳を皇室の氏神である、荘厳な伊勢神宮に案内できるというメリットを保守志向の強い安倍首相に訴えているようです」(ある官僚OB)

 同誌は、先の北村情報官と西村危機管理監が、官邸の情報担当として激しい主導権争いをしていると伝えている。ここに前警察庁長官の米田氏が加わり、サミットの会場選びは国民のことなど度外視した「警察官僚の、警察官僚による、警察官僚のため」の威信掲揚の場にすり替えられたというわけだ。

 これほどまでに警察官僚が牛耳るサミットも珍しいそうだが、もうひとつ、警察官僚とは関係なく安倍首相がもち出してくる可能性が取り沙汰されている候補地もある。それは広島だ。

 もし、広島開催が実現すれば、米国のオバマ大統領たち核保有国の首脳が被爆地を訪れることになり、核廃絶に向けたメッセージを発信することが可能になる。とはいえ、核廃絶に無関心な安倍がそんな選択をすることがありうるのだろうか。しかし、自民党のある議員はこう指摘している。

「もし広島を選ぶとしたら、安倍さんの目的は、核廃絶のメッセージというより、欧米諸国の戦争責任追及にカウンターを加えることだろう。被爆の実態を見せることで、自分たちの歴史修正主義的な言動に文句をいわせないようにする、という計算があるんじゃないか」

 いずれにしても、サミットは安倍の独裁をさらに強化するためのイベントになることは間違いないだろう。
(高橋憲一郎)

最終更新:2015.06.01 07:13

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