憑依、守護霊、前世にUFO…東大医学部教授のオカルトがとまらない

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『「あの世」の準備、できていますか?』(マガジンハウス)

 20万部超と売れている『おかげさまで生きる』(幻冬舎)。著者の矢作直樹氏は東京大学医学部救急医学分野教授、医学部附属病院救急部・集中治療部部長をつとめる人物だが、その内容はどう考えてもオカルトとしか思えないものだった。(前編はこちら

 私たちは「おかげさま」という存在に生かされている。魂の集合体である「おかげさま」は大いなる存在であり、「おかげさま」のベーシックな部分では、私たちは皆つながった存在で、そこに亡くなった人も参加している、そして、こう言い切るのだ。

「そもそも私たちの本質は肉体ではなく魂ですから、病気も加齢も本当は何も怖がる必要はないのです」

 だが、矢作センセイのオカルトぶりはこんなものではすまなかった。まず、2012年に出た2冊の対談集では、“死後の世界”についてより深く語り始めている。

 センセイがオカルトに傾斜するきっかけになったのは、霊媒師に母親との“交霊”をしてもらったことがきっかけなのだが、『体外離脱体験』の著者(坂本政道)との対談をまとめた『死ぬことが怖くなくなるたったひとつの方法』(徳間書店)では、その母親との“交霊”体験の“衝撃”をさらに詳しく語っている。

「それは現在、我々が持っている物理や医学程度の知識で想像のつくものとは全然違います。本当にそこにいるわけです。ですから、それまで自分が持っていた価値観が変わるのは本当に一瞬です」
「私も自分が経験するまでは、本で読んだ知識しかありませんでしたから、実際にその現場に当事者として参加すると、その日を境に人生観が変わりました。母親しか知らない、身内しか知らない話を、すらすらと始めた時には何事かと思いました」

『人は死なない。では、どうする?』(マキノ出版)という気功家との対談集では、“霊の姿”についてこんな珍説を披露するまでになった。

「いくつもの事例から推察すると、あちらの世界は、物質界とは違って、自分の意志に従っていかようにもできるようです。姿かたちは自分の自由になるんですね。とはいえ、こちら側の人と交流するときには、自分の好きな姿で出てきてしまうと、こちら側の人にわかってもらえません。そこで、遺族のよく知っている姿で出てくるということになるんだと思います」

 また、前出の『死ぬことが怖くなくなる〜』では、輪廻について語り、「前世が終わった後に、次の人生を選ぶミーティングをガイドとともに行う」という対談者に対して、次のように賛同している。

「前世が終わって後にミーティングをして次の人生を選ぶという仕組みは、私自身も以前からイメージとして感じています。イメージとしては、割と明るい場所で、『身体はこういう形もいいと思う』『キャリアはこんな感じで』といった、大きな部分をざっと話し、最終的にじゃあこれ、というニュアンスも、不思議なほど自然に感じます。それは輪廻を事実上の仕組みとして認めることであり、(略)『すべての存在はつながっている』という言葉とも同根です。つまり輪廻があり、実は自分たちはつながっている、あるいはつながっている存在であると同時に輪廻している、どっちの表現でもいいのですが、これらは仕組みとしての事実です」

 キャリアはこんな感じで、って、ハローワークじゃないんだから……。しかも、「仕組みとしての事実です」という口ぶりは、10数年前、成田ミイラ化遺体事件を引き起こしたライフスペースの主宰者の「定説です」というフレーズを彷彿とさせるではないか。

 そして、2014年には、さらにエスカレートし、3冊の衝撃的な対談本を出している。

 まずは『「あの世」の準備、できていますか?』(マガジンハウス)という作家・田口ランディとの対談集。オカルト的な作風で知られ、矢作センセイの第一作の『人は死なない』の出版にも尽力したという田口との対談で、センセイは「駅での飛び込み自殺だって、霊障という場合もあるかもしれません」と“憑依”についても言及。最近、自分が若い女性の駅員の接客に対してキレたことを「憑依された」からだと話す田口に対して「そうでしょう。まさに同調でしょうね」と大きくうなずくのだ。

 次は『未来のための日本の処方箋』(ココリラ出版)という精神世界研究家・秋山眞人との対談集。秋山眞人は少年時代にスプーン曲げ少年としてメディアに出て以来40年間、精神世界研究家としてオカルト的な言説を振りまいている人物だが、その秋山に対して、矢作センセイは「実は最近、私もよくUFOを見ます」と打ち明けている。

 きわめつきは、宇宙マッサージ師「プリミ恥部」こと白井剛史との対談『気をつかわずに愛をつかう』(アーバンプロ出版センター)。センセイは、こんな前世の記憶を得意げに語るのだった。

「(前世について)いま、かすかに覚えているのは、イスラエルの南の今のエジプトと思われるところです。それと、人に言われたけれど覚えてないのが日本です。戦国時代にここにいたと言われて、その場所に行ってみたんですけど、残念ながら思い出せませんでした」
「エジプトのほうは、景色がとても鮮明に浮かんでくるんですよ。私の記憶にあるのは、たぶん三千年あまり前のころのことです。12支族が分かれる前で、自分はそのひとつの支族の人間として再びこの地に帰ってくることがないことを感じていました」。

 霊による憑依、前世にUFO、とオカルトがエスカレートし、“オカルトの総合病院”のような状態になっているが、このエスカレートぶりの背景には、2013年9月に弟をガンで亡くすという衝撃的な事件が影響しているようだ。このとき、センセイは、“弟が死後、弟の奥さんの守護霊になる”ことをある人物に予言されたのだという。

「友人に、昨年九月、私の弟が亡くなる前後から、いろいろ相談していたんですが、正確に先を予言していくんです。弟は十七歳年下の妻と二人だけで、子どもがいませんでしたが、死ぬことは何とも思っていなかったようです。(略)その友人、仮にAさんとしておきますと、Aさんが『この人は、亡くなって、ほぼ一週間くらいで、奥さんの守護霊となって動き出すだろう。普通、守護霊というものは、配偶者レベルだと、だいたい生きていた人がすぐにある人の守護霊として働くことは、あまりない。(略)そして、奥さんが彼とコミュニケーションできるようになるだろう』ということを予言したんです。そしたら、本当に今、そうなってしまったようです。もちろん、彼の妻には伝えていません」(『未来のための日本の処方箋』)

「(守護霊になった彼と)コミュニケーションできるようになる奥さん」にはその予言の内容については確認していないようなのだが、それ以後、矢作センセイはこの友人(Aさん)を盲信するようになったようだ。『「あの世」の準備、できていますか?』でも、そのAさんについて語っている。

「私も過去生についてはポツンポツンと記憶があるのですが、その友人は、もっと具体的に、この人とは何年間に何回会って、その時どういう関係で、とそこまでわかるんです」
「(その友人は)神事をやっているので、見えないけれど、大きい仕事をしているんです。つまり守護霊団が我々とは桁違いなので(略)守護霊団というのがわかりにくいかもしれませんが、彼の周りにもうひとつ、国を守る守護霊団があるようです」
 
 国を守る守護霊団とは、どえらいスケールになってきたが、結局、矢作センセイのオカルトには常に親族の死がついてまわっている。母親の死をきっかけにオカルトに目覚め、弟の死をきっかけに憑依や霊障へとその“信仰”をエスカレートさせていった。そこには、東大教授としての知性も、“科学の本質”のひとつであるはずの批判的視点もまったく感じられない。そういう意味では、人間が弱ったときにどうオカルトにつけこまれるかをセンセイが体現しているといってもいいだろう。

 しかし、矢作センセイが問題なのはただ、個人的にオカルトにすがっただけではないことだ。センセイのオカルト信仰は数多くの本になって出版され、多くの読者に読まれている。しかも、それがただのオカルト本では絶対にありえないような売れ行きを見せているのは「東大医学部教授」「附属病院救急部・集中治療部部長」というブランドによるところが大きい。個人がどんな思想をもとうと自由だが、東大医学部教授という肩書きを利用してそのオカルト信仰を広めようとするのは職業倫理上、問題があるといわざるをえない。
 
 そして、この責任は矢作直樹という人物を「救急部・集中治療部部長」という要職につけている東大付属病院にもある。考えてみてほしい。救急・救命治療というのは、まさに命の危険にさらされた患者たちが助けを求めてやってくる場所なのだ。その責任者に「私たちの本質は肉体ではなく魂ですから」などとうそぶく医師が就いていたとしたら、あなたはそんな病院のことを信用できるだろうか。
 
 東京大学医学部は一刻も早く、矢作センセイの処遇を考えるべきではないか。
(小石川シンイチ)

最終更新:2015.01.19 05:34

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