朝日新聞が誤報問題のトラウマで権力批判を放棄し“読売新聞”化?

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朝日新聞も権力に屈してしまうのか……?(イメージ画像は『朝日新聞』8月5日朝刊より)


 社長が謝罪会見を開いても朝日バッシングはまだまだやみそうにない。長年の仇敵を追いつめて調子に乗っている安倍首相からは「朝日新聞は世界に向けて(強制連行)取り消しを周知せよ」などとプレッシャーをかけられ、「週刊文春」(文藝春秋)には新たに任天堂社長のインタビュー捏造を暴かれた。この機に朝日の購読者を奪い取ろうともくろむ読売、産経もまだまだ追及の手をゆるめる気配はない。

 もっとも残念ながら、朝日がこのままつぶれてしまうといった、ネトウヨ諸氏が期待するような事態は当面の間は起こらなさそうだ。他紙の幹部がこう語る。

「期待していたんだが、今のところ、そこまで購読者が減っているわけではないらしいよ。むしろ読売のほうが押し紙を整理したことで急激に部数を減らしている。だから、朝日の中傷ビラをまいて読者をとりにいっているんだが、なかなか効果があらわれないらしい(笑)。それと、これから先、仮に朝日の部数がもっと低下しても、あの会社は不動産など相当の資産をもっているからね。つぶれるところまではいかないだろう」

 ただ、朝日に関しては、つぶれるよりもっとひどい事態は起きる可能性がある。ただでさえ萎縮気味だった報道現場の姿勢がさらに腰が引けたものになって、今後、政権批判や先の戦争を否定するような検証報道ができなくなるのでは、という懸念が強まっているのだ。

 いや、その兆候はすでにじわじわとでてきているといっていいだろう。朝日新聞は8月27日付朝刊で、安倍首相がA級、BC級戦犯として処刑された元日本軍人の追悼法要に自民党総裁名で哀悼メッセージを送っていたことをスクープした。この法要は、連合国による裁判を「報復」と位置づけ、処刑された全員を「昭和殉難者」として慰霊するもので、この中には東条英機元首相らA級戦犯14人も含まれている。

 そんな法要に首相は「自らの魂を賭して祖国の礎となられた」と伝えていたのである。つまり、安倍首相は東京裁判史観そのものを否定し、むしろ日本軍の兵士達の大半を餓死させた戦争責任者をこそ積極的に称えたいと考えていることを証明する報道だった。ところが、こんな重要な記事が、紙面ではなぜか、第二社会面でひっそり報道されただけだったのである。

「少し前なら間違いなく一面トップで扱っていたはずです。すでに従軍慰安婦問題で批判が強まっていたところだったので、明らかに目立たないようにおさえたんでしょう。記事のタイミングも妙でした。法要は4月ですし、終戦記念日からもずれている。木村伊量社長の謝罪会見後には出せなくなるとふんで、このタイミングで出したのはないかといわれています」(朝日関係者)

 朝日らしいなんとも腰の引けたやり口だが、しかし、今後はこうした歴史修正主義を批判するような報道そのものができなくなるのではないか、とささやかれているのだ。

 また、もうひとつ、懸念されているのが、吉田調書をスクープした特報部の解体だ。特報部はジャーナリズムのもっとも重要な役割である調査報道の専門部署として政治部や社会部から敏腕記者を集めて、2011年に発足。数々のスクープをものにしてきた。評価の高かった福島原発事故の検証連載「プロメテウスの罠」もこの部署の企画で、国の除染作業の手抜きをスクープした記事では新聞協会賞も受賞している。

「リベラル派からの反発を恐れてすぐに解体することはないでしょうが、何もやらせてもらえず飼い殺しにされるのは確実でしょう。ある意味、官僚化した朝日の中で最後の砦のような部署でしたから、ここがなくなるというのは痛手です」(同)

 実は、朝日新聞社という会社には、官邸や自民党、ネトウヨが敵視するような反権力性、左翼性はとっくに失われている。とくに1999年に経済部出身の箱島信一が社長に就任して「普通の会社になろう」というスローガンで社内改革を進め始めたあたりから、左派系の記者やトップ屋的な記者はパージされ、“建設的な政策提言のできる記者”、つまり権力に理解のある記者が徴用され、主流を占めるようになった。

 憲法についても政治部では改正派が多数を占め、社説で改憲を提言したこともある。経済政策も同様で、新自由主義的政策と財政規律を重視する姿勢は日経新聞とほとんど変わりがない。

 だが、それでも朝日の場合は、読売や産経ほどの露骨な権力すり寄りをすることはなかったし、読売や産経と違って社内的な言論の自由も最小限あったため、一部の心ある記者が自由に動ける領域がギリギリのところで確保されていた。しかし、今回のことでその最後に残されたジャーナリズムの良心のようなものが叩き潰されてしまうかもしれないのだ。

「木村社長はこの十数年の執行部の中では比較的リベラルなほうだった。その体制がこれで崩れると、主流はもっと政権よりの社内右派が握ることになる。特報部も解体されて、自由に動ける部署もなくなる。そのスタンスはかぎりなく読売新聞に近くなるかもしれませんね」(同)

 この国に読売新聞が2つもあっても、害悪を垂れ流すだけだと思うが……。
(田部祥太)

最終更新:2015.01.19 05:45

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