【左巻き書店からの緊急のおしらせ】

朝日の慰安婦報道問題で大喜びしているネトウヨに告ぐ!

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大きな反響を呼んだ朝日新聞「慰安婦問題」報道の総括(イメージ画像は『朝日新聞』8月5日朝刊より)


 朝日新聞が従来の自社「慰安婦問題」報道に関するトンデモ総括を発表(8月5~6日)して、ネトウヨや保守論壇が小躍りして喜んでるようだな。

 朝日をターゲットに据えることで非保守(朝日ごときブル新を栄光ある「左翼」とは呼ばない)の言論全般を否定にかかるネトウヨ側の戦略はさて置き、朝日自身が慰安婦問題の提起者を自認してるのにはあきれるしかない。

 在日朝鮮人らへの民族差別や性差別、戦争犯罪の問題は、枚挙にいとまがない程、戦後様々に語られてきている。朝日新聞が1990年代になってはじめて問題提起したかのような物言いがよくできるな。吉田清治て何者だよ。世界公認の歴史研究の最高権威なのか。単に注目を集めたいがために適当なことをしゃべるじいさんじゃないのか。吉田があると言えばある、ないと言えばない。なんでそんな奴ひとりの発言で歴史が確定されるんだ。世間ではきちんと議論されてたのに、単に朝日新聞記者だけが問題意識が低くてだまされただけだろよ。朝日新聞とネトウヨの談合で歴史を決められちゃたまんないぜ。

 ネトウヨの論理など、アタマから破綻している。

「慰安婦は高級売春婦である。売春は当時合法であったのでなんら批判の対象ではない。慰安婦=売春婦は個人の自由な意志で金銭を目的にその職に就いた。兵士の何倍も稼いでいた」
だと。

 まったく嗤わせる。個人の自由意志で職業選択できるなんて、戦後憲法上の理念の上だけの話で現実化したことなど一度もない。誰もが自由に職業を選択し望む仕事についているなんて信じてるとすれば、完全な「戦後民主主義ボケ」だぜ。いまこの現在だって、多くの人間が状況に強いられてやむなくその仕事に就いてる。戦前において、年端もいかない娘が、どうやって周囲の反対を押し切り自分の意志を貫いて売春婦になるんだよ。個人の意志など圧殺されて、状況と他者に強制されたに決まってるじゃないか。想像力も持ち合わせていなければ、歴史の知識のかけらもない。

 そもそも、ネトウヨたちが、「戦前の合法的存在である(高級)売春婦」と侮蔑的に呼んでいる女性たちが、どのような状況でそこに追い込まれたか、教えてやろう。

「一九二九(昭和四)年末から三五(昭和一〇)年ころまでの約六年間、日本経済は、それまでに経験したことのないような深刻な不景気の時代に落ち込んだ。」(中村政則『昭和恐慌』岩波ブックレット)これを昭和恐慌という。「『昭和恐慌』でもっとも大きな打撃を受けたのは、なんといっても農民であった。当時の有業人口のなかで、農業者は最大の割合をしめていたから、その影響はひろく、そして深かったといわなければならない」具体的には「一九三二(昭和七)年に、農家一戸当たりの負債総額は、八四六円に激増した。当時、農業所得と農業外所得を加えた小作農家の一カ年の収入は五五二円であったから、負債は年間所得の一・五倍をこえたことになる。借金を返せない農家は、娘を芸妓や酌婦にだしたり、娼妓屋のブローカーに身売りした。」(同上)

「なかでも一九三四年の東北地方の例外は、一九〇二年の大凶作(餓死者を路傍に打ちすてたといわれる)以来の惨状をしめし、大きな社会問題となった。…『東京日日新聞』(一九三四年一〇月一七日付)も、『稗飯を食べるものがめぐまれた最上流の農家』であり、もっとも例外のはなはだしい地方では、『藁を粉にして水とともにすゝりこ』むといった、さらにすさまじい食糧事情を報じた。」「さらに悲惨だったのは、売られていった女たちである。三〇〇戸ほどの村から、二〇〇人の娘が売られていったとか、わずか一〇円で小学生の娘を手ばなしたとかいう哀話は枚挙にいとまがない。たとえば『国民新聞』(一九三四年一一月六日付)によれば、上のような書式の『娘売買契約書』が、活版印刷ででまわっていたという。…娘に売春させることをみとめる契約書。それは、一九三四年の東北冷害のすさまじさを如実にあらわしている。生きていくためにはなんでも食べ、娘をも売らねばならない状態――まさに“生き地獄”そのものであった。」(須崎慎一『二・二六事件』岩波ブックレット)文中に出てくる「娘規約書」とはこのような文面だ。「右者 今般貴殿方の女給として被雇仕候に就ては酌婦または私娼として就業せしめられ候も決して異議申間敷ここに契約候也」。

 こうして、経済的不平等を推進する社会構造を基盤に、日本の因襲的なイエ制度の下、家族を餓死から逃れさせるために親に売られた娘たちこそが、やつらのいう「(高級)売春婦」なのだ。

 時間や空間を超えて異なる文化や思考が存在するというということを認知できないからもちろんネトウヨなのだが、戦前を賛美するとき頭の中にあるのは、自分の狭い知見で構成された戦後的価値観とイメージの投影にすぎないのだ。歴史の現実などまったく知らない。一部には「慰安婦は朝鮮人の親が貧困から売春業者に売っただけなので、日本(国/軍/人)は悪くない。当時ビンボーは当り前だからしようがない」というような発言も横行してるが、社会構造というものへの無知に加えて、自己利害の擁護のためには他人の痛苦は平気というのはある種の病いとしか考えられない。

 こうした農村の惨状を救済することも重大な背景として、1936年に起きたのが、陸軍青年将校によって「昭和維新」を掲げるクーデター二・二六事件である。「(青年将校たちは)資本主義の日本的発展の中に内包された不均衡という現実をもっとも身に感じた人たちであり、とくにその犠牲者である農民の窮乏に切実な同情をよせないわけにはいかなかった。青年将校の執筆した論文に『軍服の農民の苦悩を知り、軍服の農民の魂を攫み軍服の農民を握る』青年将校こそ「われら熱と誠心の初年兵教育に彼らの魂を攫み彼らの胸奥を知っているのだ』と書いてある。」(高橋正衛『二・二六事件』中公新書)つまり、身売りされた娘とは兵士たちの家族なのだ。

 事件は、蔵相をはじめとする政府要人を暗殺し、首相官邸、警視庁などを占拠したが、昭和天皇の怒りを買い、反乱軍として鎮圧された。

 この二・二六青年将校に熱いシンパシーを抱いたのが三島由紀夫。二・二六事件三部作のひとつで、代表作といっても過言ではない『憂国』の映画化にあたっては監督・主演をつとめたほどだ。

『英霊の聲』では、二・二六兵士が降霊して霊媒者の口を借りて語る。「そのとき玉穂なす瑞穂の国は荒蕪の地と化し、民は餓えに泣き、女児は売られ、大君のしろしめす王土は死に充ちていた。」そして決起によって「ふるさとの悲しめる父母、悲しめる姉妹の救済」をはかった、と。

 ネトウヨたちを1936年の雪の降りしきる2月26日の東京に連れて行ってやりたいよ。そこで「おまえらの姉妹は、法に基づいて自分の意思で売春婦になり結構稼いでるのに、国を批判するなんて、反日行為だ」といつもの主張を叫んでみるがいい。即座に銃殺だろうぜ。

 こんなネトウヨの戯れ言を放置している様を見ていると、いまの日本ではリベラルが頼りないのはもちろん、二・二六に思いを馳せるようなまともな保守論客もいないんだろうな。

 ネトウヨの「売春婦」発言をみれば、歴史的現実への無知だけでなく、過去の事象に対しても現在の価値観と表象を読み込んでしまう「戦後民主主義ボケ」は明らかだ。

 問題の本質を些事にこだわって隠蔽させるな。人間が殺しあう戦争には反対する。戦争を遂行するために、女性を戦場において兵士の性欲を処理に従事させることは許されない。人命と人間の尊厳は尊重されるべきだ。だから、従軍慰安婦の存在を肯定する言論は許容できない。――単にそれだけのことだ。

 過去の戦争を正当化することによって、また新たな戦争が正しく必要なものとして求められている時代が今だ。ただただ愚直な反戦の論理だけを響かせろ。
(左巻き書店店主・赤井歪)

●左巻き書店とは……ものすごい勢いで左に巻いている店主が、ぬるい戦後民主主義ではなく本物の左翼思想を読者に知らしめたいと本サイト・リテラの片隅に設けた幻の書店である。

最終更新:2018.09.27 01:12

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