もう一度いう。ジブリ解散も撤退もない、そして次回作はコレだ!

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映画『思い出のマーニー』公式サイトより


 ジブリ解散説をめぐって、本サイト「リテラ」が「作画スタッフを人員整理しているのは事実だが、解散はない」と書いたのは8月2日。ところが、8月4日なって再び「夕刊フジ」と同紙のサイト「ZAKZAK」が「ジブリアニメ撤退」と報道。「yahoo!」でも取り上げられ、大きな反響を呼んでいる。

「夕刊フジ」の記事によると、ジブリは今年春に制作部門を解体し、映画製作から撤退。「思い出のマーニー」が同社の最後の作品になりそうだという。

 だが、8月2日の原稿でも書いたように、常駐スタッフを解雇して現行の制作部門を解体するからといって、イコール、ジブリ解散でもなければ、アニメ制作からの撤退でもない。アニメーション業界ではもともとほとんどの会社が常駐スタッフをおいていない。作品ごとにフリーのアニメーターを集め、制作が終わると解散、というのが普通なのだ。

「宮崎(駿)監督が引退して、他の監督作品の興行収入では、その常駐スタッフの人件費をまかなえない。だから、他のアニメーション会社と同じようなフリーを使う体制に切り替える、それだけのことだと思いますよ。おそらく『思い出のマーニー』の米林宏昌監督と、宮崎さんの息子である吾朗さんの2人を看板監督に、これからも制作は続けるはず」(ジブリに詳しいアニメーション関係者)

 実際、株主総会でも、鈴木敏夫代表取締役は「制作部門を1回解体」するとはいっているが、同時に「再構築をしようと思う」と語っており、解散や撤退などは一切口にしていない。

「にもかかわらず、こんなに何回も解散・撤退が報道されるというのはおそらく、映画関係者のリークでしょう。公開中の『マーニー』の興行成績が伸び悩んでいるので、“ジブリ最後の映画”と煽っててこ入れしようとしているんじゃないでしょうか」(前出・関係者)

 まあ、本サイトがいくら「解散はない」といっても多勢に無勢で聞き入れてもらえないだろうが、そんな空気は一切無視し、あえてジブリの次回作を予測してみよう。実は筆者はジブリの次回作にあたりがついているのだ。

 何を根拠に? そう思われるかもしれないが、ヒントは2010年頃にスタジオジブリが非売品として作成した小冊子「岩波少年文庫の50冊」の中にある。岩波少年文庫は世界の児童文学の代表作を集めたシリーズだが、この小冊子は児童文学に造詣が深い宮崎駿監督がその岩波少年文庫からお気に入りの作品を50冊選んだもの。後に宮崎氏の著作『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』(岩波新書)にも収録されている。

 実は、最近の若手監督によるジブリ映画は、その「岩波少年文庫の50冊」で紹介されている作品がほとんどなのだ。息子・吾朗監督のデビュー作である『ゲド戦記』も宮崎監督が同冊子の中で強く薦めているし、2010年に公開された『借りぐらしのアリエッティ』も同書のなかに登場する『床下の小人たち』が原作。そして、現在公開中の『思い出のマーニー』についても、宮崎監督が同冊子で「この本を読んだ人は、心の中にひとつの風景がのこされます。入江の湿地のかたわらに立つ一軒の家と、こちらをむいている窓」と書いている。
 
 宮崎監督は、この岩波少年文庫をアニメのネタ探しのために片っ端から読んだと告白しており、『クローディアの秘密』など、アニメ化を試みたことがある作品も少なくない。そして、その思いは若い監督達に受けたがれてきた。いわば、岩波少年文庫は宮崎アニメ、ジブリアニメの源泉と言ってもいい存在なのだ。

 おそらく、それは宮崎監督が引退した今後も変わらないだろう。実際、『思い出のマーニー』も宮崎駿が一切関わっていない作品だが、明らかに宮崎監督がこの岩波少年文庫収録の作品を気に入っていたことが企画採用の大きな要因となっている。

 しかも、前回の記事で、宮崎監督が『風立ちぬ』の次に「いまの時代にほんとうに観てよかったと思える新しいファンタジー」をつくろうとしていたことを紹介したが、次回作が宮崎監督の復帰作になる可能性も十分あるのだ。

「監督でなくとも、原案や原作という形で復帰する可能性は十分ある。とくにもしジブリが本当に解散するなら、必ず宮崎さんが何らかの形で関わる作品が最後の作品になるはずです」(前出・関係者)

 ならば、ますます宮崎監督が「岩波少年文庫の50冊」で紹介している、監督の大好きな作品が次回作になる可能性は高いといえるだろう。

 では、具体的にどの作品が候補なのか? 実は「岩波少年文庫の50冊」で、宮崎監督はすべての作品を手放しでほめているわけではない。宮崎監督らしくかなり率直に感想を書いていて、気に入っていない作品、本当にいいなと思っている作品もすごくもわかりやすい。

 たとえば、『ハイジ』(ヨハンナ・シュピリ)については、自分たちのアニメの方がはるかにできがいいという意味のことを書いているし、『ロビンソン・クルーソー』(デフォー)も白人が力で収奪するのが「気になる」と指摘している。
 
 逆にかなりの字数をさいて、思い入れたっぷりに語っているのが、『まぼろしの白馬』(エリザベス・グージ)『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー)『みどりのゆび』(モーリス・ドリュオン)『ぼくらはわんぱく5人組』(カレル・ポラーチェク)という4作品だ。

 まず、『まぼろしの白馬』は宮崎監督が69歳のときに中川李枝子氏(『ぐりとぐら』作者で『となりのトトロ』の挿入歌の作詞も務めた)に薦められはじめて読んだ作品。前述したように、宮崎監督は「いまの時代にほんとうに観てよかったと思える新しいファンタジー」をつくることが自分たちの使命だと語っているが、この作品を「ほんとうのファンタジー」と絶賛している。しかも、女の子が主人公で「不思議なところがあちこちにある」という設定も、宮崎監督の好みのような気がする。

 一方、ファンタジーではないが、宮崎監督が抱いている時代への危機感とリンクしているのが『飛ぶ教室』だ。宮崎監督はこの作品について、「時代が破局に向かっていくのを予感しつつ、それでも「少年たちよ」という感じで書かれたもの」と語っている。しかも、この物語を読んで「ぼくには少年時代も大人の時代もやり直すことはできません。でも…と思います。ちゃんとした老人になら、まだチャンスはあるかもしれないって…。」という感想を述べている。

『みどりのゆび』も同じように、宮崎監督が今の時代に必要だと考えているお話かもしれない。自分の親指がふれるものから草や花がはえてくるという能力をもった主人公のチトが兵器工場や刑務所を緑にかえてしまうお話で、まさにジブリ的なファンタジー。宮崎監督も「ぼくらのゆびは、みどり色ではありませんが、チトの側にいようと思っています」と思い入れたっぷりに語っている。

『ぼくらわんぱく5人組』はナチス占領前のチェコスロバキアのユダヤ人の少年の話だが、ファンタジー的な要素も強い。宮崎監督は「あとの12章は作者が何を伝えようとしているのか、ぼくには判らないのです」「未完だったかもしれないとも思いました。作者はこの原稿をひみつの机にかくして、強制収容所で殺されてしまったからです。」と語っているが、その感想はネガティブなものではなく、どうにか理解したいという気持ちが伝わってくる。しかも、この数年後、震災直後のインタビューでも、宮崎監督はこの作品のことをこんなふうに語っている。

「風が吹き始めました。(中略)生きていくのに困難な時代の幕が上がりました。この国だけではありません。破局は世界規模になっています。(中略)放射能をはらむ風が窓の外の樹々を吹き荒れているのを見ているうちに、今、もう一度『ぼくらはわんぱく5人組』を読まなければならないと思いました。ポラーチェクがアウシュヴィッツで殺されたとき、この原稿はある出版社の机のなかにかくされていたのです。/この作品は「やり直しがきく話」という僕の考える児童文学の範囲をはるかに超えるものを含んでいるようです。」

 実は同じインタビューの中で、宮崎監督は自分とジブリがこれから取り組むべき映画について「風が吹き始めた時代の映画は、机の抽斗にかくさなければならない作品かもしれないという覚悟がいります」とも話している。宮崎監督がこれから、ナチの占領下で机の引き出しに隠されていた作品を取り出し、新しい時代の映画にしようとする可能性は十分ある。

 どうだろう。いずれも、宮崎監督が思い入れたっぷりに語っているだけあって、ジブリが映画にするのにふさわしい作品ばかりだ。ここはあえて断言しよう。ジブリの次回作は『まぼろしの白馬』『飛ぶ教室』『みどりのゆび』『ぼくらはわんぱく5人組』このうちのどれかだ、と。
 
 こんなことを書くと、「夕刊フジ」や「ZAKZAK」を信じているあなたは「ジブリは解散するのに、何を妄想してるの?」と小馬鹿にするかもしれない。だが、筆者とリテラは誰がなんといおうと、ジブリが、そして宮崎駿が「いまの時代にほんとうに観てよかったと思える新しいファンタジー」で私たちを再び感動させてくれると確信している。答えは遅くともあと数年のうちに出るはずだ。
(酒井まど)

最終更新:2014.09.23 08:52

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