親権を手放した中山美穂への“母親失格”攻撃は女性差別だ!

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画像はドラマ『For You』DVD BOX(フジテレビ/ポニーキャニオン)より

 7月8日、中山美穂と辻仁成夫妻の離婚が成立した。3月27日に勃発した離婚騒動は、3カ月半にしてついに決着が着いた形だ。しかし離婚成立を期に大きく変わったことがある。それは、これまで中山に好意的だった世間やマスコミの空気が一変したことだ。その最大の理由は辻の発したツイッターにあった。

「今後は息子とふたりで生きていくことになります。ぼくと生きたいと望んでくれた息子の気持ちにこたえられるよう、父親としても頑張りたいと思います」

 そう、離婚後は長男の親権は母親の中山ではなく辻が持ち、父親と一緒に暮らす──。このことが世間を驚かせ、“母親”の中山への批判を巻き起こしたのだ。折しも5月には中山と音楽家・渋谷慶一郎との“不倫熱愛”が発覚しており、それに拍車をかけた。「息子を捨て新恋人に走った」「親権を手放してでも離婚し、新生活をスタートさせたかった」と。

 そんな空気に呼応するように、これまで中山を擁護していた多くのマスコミも中山批判にスタンスを変えていった。たとえば「週刊文春」(7月24日号)では「中山美穂は息子を捨てたのか?」と題した特集記事を掲載している。

「辻さんは、女優・南果歩と離婚した際に息子の親権を渡したことを悔やんでおり、今回は絶対に譲らないと決めていた(中略)。一方の中山も当初は自分が親権を持とうと考えていた」

 にもかかわらず、中山が親権を手放したのは「長男が辻を選んだこと」に加え、不倫相手の渋谷に「心を奪われた」からだと記事は指摘する。その上で、離婚騒動発覚以降、中山はフランスにいる長男に連絡を寄越していないことを指摘し、「子供の面倒を男に任せて不倫していたのでは、明らかにイメージが悪い」と今後の中山の芸能活動に疑問を呈した。

「女性自身」(7月29日・8月5日合併号)では「新恋人との熱愛生活&パリ父子奮闘“暴走愛”で固めた「辻仁成の決心」この3カ月、10歳長男への連絡一切なく…」とのタイトルで、離婚成立前から中山が渋谷と夫婦同然でレセプションパーティに出席している様子を紹介し、「“もう恋人のことしか見えない”──中山が母から女へと“変心”し、東京で一直線の“暴走愛”に身を投じていた」と揶揄する。

 さらに「週刊女性」(7月29日号)では、渋谷との関係を知った息子がショックを受け、中山との距離を置き、そして父親を選んだ原因になったと記している。

 当初は辻に対して「経済的に妻に依拠しているダメ夫」「長髪のキモい中性化」などと批判していたマスコミだが、親権を中山ではなく辻がもつことになった途端に手のひらを返したような対応なのだ。
 
 もちろん、この背後には、先日、本サイトで指摘したような中山の庇護者・バーニングプロダクションの対応の変化もあるだろう。バーニングはコントロールのきかなくなった中山を見放し、芸能マスコミに対しても報道規制をかけなくなっている。しかし、その論調を見るとやはり、メディアの変化は親権問題が一番の要因になっているのは間違いない。

 だが、中山美穂が親権を手放したことはそんなに悪いことなのだろうか。そもそも親権とは両親の権利ではなく、「子供のため」の権利だ。子ども自身の希望だけでなく、その生活や将来にとってどちらが有益かということも考慮される。

 中山・辻夫妻の場合、生活の拠点がフランスにあった。息子もフランスで育ち現地の学校に通っていた。息子の今後の生活にとっては、日本で女優活動を本格始動させる中山よりも、離婚後もフランスにとどまる辻のもとにいるほうが都合がいい、そういう判断だった可能性も高いのだ。

 いずれにしても、中山・辻夫妻が子どもの意思とその将来を考えて決断したことなのだから、外野があれこれ非難するような問題ではない。だが、中山へのバッシングを見ると、「母親のくせに」という“感情論”ばかりが先行している気がするのだ。

 おそらくこうした批判の根底に横たわっているのは、“母性神話”である。子どもを守り育てるのは母親の役割であり、母親も子どもの側にいるのが一番幸せだという価値観だ。

 だが、この母性は本能などではない。フランスを代表するフェミニストで、歴史家でもあるエリザベット・バダンテールは1980年に発表した『母性という神話』(ちくま学芸文庫)で、母性は18世紀頃につくられた神話であるとして、こう批判した。

「女は母親という役割に閉じ込められ、もはや道徳的に非難されることを覚悟しなければ、そこから逃れることはできない」
「人はこの母親の任務の偉大さや高尚さをたたえる一方で、それを完璧にこなすことのできない女たちを非難した。責任と罪悪とは紙一重であり、子どもにどんなわずかな問題点があらわれても入れかわるものだった」

 中山美穂は今、まさにこの“母性神話”によって、非難にさらされているのではないだろうか。

実際、日本はこの母性神話の強制力がとてつもなく強い国だ。日本では、離婚した際に8割以上のケースで母親が親権を持つといわれているが、現実には、母親が元夫や親族から「子育ては母親が責任を負うべきもの」というプレッシャーをかけられて、しようがなく親権者になっているケースも多い。

 たとえば、2010年に大阪で起きた幼児2人置き去り死亡事件でも、母親は当初、親や元夫に「私には育てられない」といっていたにもかかわらず、周りから「母親なのに」と説教をされて子どもを引き取ったことがわかっている。裁判所も同様で、親権訴訟になった場合は、よほどの事情がないかぎり母親に親権を認める傾向がある。
 
 しかし、世界的に見れば、離婚後、両親のどちらかにしか親権がないという考え方がおかしいのだ。辻、中山夫妻が暮らしていたフランスをはじめほとんどの先進国では、離婚後も父母が共同で親権をもち、子どもを“監護”するという制度になっている。日本のように、親権をもった親がもう一方の親に子どもを会わせないなどということはありえない。

 夫婦が子育てを等しく分担、共有し、等しく子どもに愛情を注ぐ。それが世界的な流れである。だが、安倍政権が打ち出した「3年育休」もそうだが、結局、この国は子育てを母親だけが負担するという価値観から抜け出せないでいる。その考え方が少子化を加速させ、シングルマザーの孤立や子どもの虐待を引き起こしていることに気がつかないのだろうか。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.12.07 07:41

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