スカウト、物販、接触問題…地下アイドルの「運営」になる方法

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画像は1stフルアルバムCD『Unforgettable Final Odyssey』(ゆるめるモ!)より

 アイドルブーム真っ只中の現在。日本全国で活動している女性アイドルグループは、500組とも1000組とも言われている。これだけたくさんアイドルがいると、「アイドルになりたい!」と思う女の子が増えるのはもちろんだが、最近では「アイドルを運営したい!」と考えるアイドルファンも増えているという。

 自分だけのアイドルを持つなんて、ファンとしては夢のような話だが、果たしてそんなことが可能なのだろうか? だが、実際に自分の力でゼロからアイドルグループを作り出したという例はけっこうあるらしい。 

 そのひとりが、8人組の“脱力系ニューウェーブアイドル”ゆるめるモ!のプロデューサー、田家大知氏だ。

 ももいろクローバーのメジャー2ndシングル「ピンキージョーンズ」を聴いて、アイドルに目覚めたという田家氏。東日本大震災をきっかけに社会貢献できる方法を模索するようになり、「キツかったら逃げてもいいんだよ」という気持ちを伝えるために、アイドルグループの結成を思い立ったという。

 そんな田家氏の著書が、『ゼロからでも始められるアイドル運営 楽曲制作からライブ物販まで素人でもできる!』(大坪ケムタ、田家大知/コアマガジン)という一冊。メンバーも何もない状態から、アイドルを創り上げるためのノウハウを知ることができる。

 まず、アイドルグループを結成するにあたって、もっとも重要なのがメンバー探しだ。芸能事務所であれば、もともと所属しているタレントで結成させることもあれば、大規模なオーディションを開催することもできる。しかし、ゼロからはじめるとなると、そうはいかないのだ。田家氏はそこで、街なかでスカウトするという方法を選択した。

 街なかでいきなり声をかけるので、当然ながら怪しまれたり、罵られたりすることもあったようだ。しかし、スカウトの利点は「自分の中にあるアイドルのイメージと合致する子をダイレクトに選べる」ことだという。また「根気さえあれば自分の満足いくまで好みのメンバーを揃えられます」とのことで、アナログな方法ではあるが、スカウトのメリットはそれなりに大きいようだ。

 メンバーが集まったら、次に重要なのが楽曲のコンセプト。ゆるめるモ!の場合は、初期の段階から「ニューウェーブ、エレクトロ、ヒップホップ、クラウトロック、ポストパンクあたりのトガッた音楽をぶち込んで、雰囲気はゆるく仕上げる」というコンセプトで固まっていたという。既存のアイドルと一線を画す、かなり攻めたコンセプトだが、田家氏は「とにかく『アイドルがこの音楽をやったらどんな話題になるか?』『どんなライブになるか?』を想像して、イメージを作ることが大切です」と語っており、ほかのアイドルとの差別化を図ることが重要なようだ。

 メンバーやコンセプトが固まったら、いよいよアイドルグループを動かしていくことになるのだが、大きな問題となるのが資金集め。ゆるめるモ!では、ファーストシングル「HELLO WORLD EP」製作時にクラウドファンディングを利用した。しかし、知名度が低かったため、上手く資金は集まらず、結局その次作となるミニアルバム『New Escape Underground!』制作時になってやっと目標額に達成したという。

 たしかに、クラウドファンディングを活用しているアイドルグループは多いが、そのほとんどが、ある程度の知名度があるグループだ。田家氏が「広く出資をお願いする場合、ある程度の知名度と実績、初見の人もつかむようなキャッチーな企画が、必要となってきます」と指摘するように、クラウドファンディングでの資金集めも簡単ではない。

 では、アイドルグループ最大の収入源とは何か? それはライブでの物販だ。しかし、アイドル運営の素人だった田家氏は、物販の重要性を理解していなかったという。そのため、ゆるめるモ!のファーストライブまでにグッズ制作が間に合わず、当日は急遽100円ショップでTシャツを買い、それにメンバーのサインを入れて500円で売った。

 しかし、蓋を開けてみると、その急造オリジナルTシャツはほぼ売り切れで、なかには「レアだし最古参の証明になる(笑)」と話すファンもいたという。アイドルのグッズでは必ずしもクオリティーが高い必要はない。田家氏は、「お客さんのニーズに合えば、アイデア次第でいろんなものを出せるのが、物販の面白いところです」と、アイドル物販の楽しさを語っている。

 また、インディーズアイドルの物販で重要な位置を占めているのが、メンバーとファンがインスタントカメラで撮影するツーショットチェキ(通称チェキ)だ。チェキの相場は500円から1000円程度。自分が指名したメンバーとツーショットを撮影するだけでなく、数分間くらいの会話を楽しむこともできる。田家氏によると「やはりチェキなどの接触のときに人気があるのは、会話を自分からふってくる子、いっぱい手を握ってくる子、ファンの人の顔や名前をすぐ覚えてくれる子、怪しげな雰囲気を出している子などでしょうか」とのことで、ファンとのコミュニケーション能力高いアイドルが人気になるようだ。

 しかしその一方で、AKB48の襲撃事件のようなこともあり、運営としては気をつけるべき点も多いはず。田家氏は、「特に未成年のメンバーは、こちらから守ってあげなくてはいけないと思っています」と、メンバーに対するリスクマネージメントの重要性を強く感じているようだ。

 また、握手やチェキだけではとどまらず、“ハグ会”や「CD○○枚購入で、メンバーとお散歩できる」などのサービスを用意するグループもあり、アイドルの“サービス業化”が問題視される動きもある。ディープなアイドルファンにいわせると、「地下現場のほうが客のマナーがいいから、過激なサービスをしてもヘンなことにはなりにくい」とのことだが、“接触”が過剰なアイドルについては「それはもはやアイドルなのか?」という疑問が湧いてくるのも事実。

 田家氏は、“接触”そのものについて、「いまのアイドルは、チェキなどに代表される接触は不可欠です。それは、モーニング娘。もAKB48も同じです」と、避けては通れないものとなっていると感じているようだ。とはいえ、「メンバーの負担になりすぎていないか、随時チェックが必要です」というように、メンバーが“接触”についてどう感じているかを日頃から知っておく必要性を説いている。

 ステージ上での活動を重視するなら、“接触”は常識的な範囲内にするべきであり、メンバーが嫌がるような過剰な“接触”を強いることなどあってはならない。

 楽しいことばかりでなく、いろいろな苦労もあるアイドル運営。しかし、ライブでファンが盛り上がっている姿などを見れば、そんな苦労も吹っ飛ぶくらいの充実感が味わえるはずだ。決して簡単なものではないが、単なるアイドルファンにとどまるのではなく、アイドルの運営になってみるのも面白いかもしれない。
(金子ひかる)

最終更新:2014.07.21 03:50

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