W杯敗退に憤るファンに告ぐ、弱さを愛する「ボトムズ」を見習え

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『J2白書 2013』(東邦出版)

 メディアの期待とは裏腹に、サッカー日本代表のグループリーグでの敗退が決まった。おそらく4年に1回だけサッカーにアツくなっていた日本代表サポーターの多くは、真っ白に燃え尽きてなにもかもやる気が失せている事だろう。中には、負けた悔しさであれだけ応援していた選手たちをディスりはじめたファンもいるかもしれない。

 そういう人にぜひ知っていただきたいのが、「ボトムズ」と呼ばれる人々の存在だ。

 ボトムズとは、Jリーグの40クラブのうち、J2下位に低迷する35位から40位の弱小クラブを応援するサポーターのことだ。ちなみにボトムズの由来は「底辺」というそのままの意味かと思いきや、ガンダムの後番組のロボットアニメ『装甲騎兵ボトムズ』(1983〜84年にテレビ放映)に由来するらしい。このアニメに登場するロボットは、使い捨ての量産兵器という位置づけでゲリラ兵でも簡単に倒せるほど弱かった。主役ロボットなのに弱っちい。そんなロボットに乗ってしまった自分たちを重ねているわけだ。

 さて、現在のJ2でボトムズと呼ばれているのは、カターレ富山、ザスパクサツ群馬、J3リーグ(三部/セミプロ)に降格したガイナーレ鳥取と入れ替りで昇格したカマタマーレ讃岐(香川・意味は釜玉うどんから)。去年までは、ここにFC岐阜が「盟主」のごとく君臨していたが、今年になって岐阜県出身の実業家、アドアーズを経営する藤澤信義氏がスポンサーとなり、ラモス瑠偉を監督に起用、元日本代表の三都主アレサンドロ、川口能活と契約するなど億単位の私財を注ぎ込んだ結果、晴れてボトムズを「卒業」。代わりにボトムズ入りしているのが、あの東京ヴェルディだ。Jリーグ黎明期の90年代、日本を代表する名門クラブも今や立派なボトムズの一員。あとは、ロアッソ熊本、ギラヴァンツ北九州がボトムズのボーダーライン。こうしてチーム名をあげたところで、サッカー好きの人でもあまり知らないだろうし、地元でさえ、よく知らないというのが悲しい現実だ。

 理由は「ボトムズ」の名が示すとおり、あまりにも弱すぎるからである。弱いから人気がなくスポンサーが付きにくい。資金がないので優秀な監督、コーチ、選手を集められない。結果、さらに弱くなり、ますます観客動員が下がるという負のスパイラルに嵌まってしまうのだ。いくら我が町のプロクラブを応援したいと思っても、そのチームが弱すぎれば、地元の誇りどころか「恥」でしかない。そうなれば地元企業もスポンサーになりにくい。さりとて、たまたま契約した無名監督や新人選手が大活躍したところで手放しに喜ぶことも出来ない。もともと安い金額で契約しているので、シーズン途中だろうが、強豪クラブにあっさりと引き抜かれてしまう。なまじ成績が上がれば給料を払えなくなり、シーズン終了後、中心選手を売り払うことも珍しくないぐらいで、無理して給料を上げようものならクラブの財政が破綻する。強くなればなったで逆にチーム存亡の危機を迎えてしまうのだ。

 ゆえに「ボトムズ」となったチームは、ほぼ持続的にリーグの底を彷徨うことになる。強くなることは許されない、負け続けることを宿命づけられたクラブ、それでも熱心に応援するコアなサポーターたち。それが「ボトムズ」というサッカー愛好家たちというわけだ。

 ともかく弱いボトムズを応援しているためか、ボトムズサポーターたちは、クラブを超えた連帯意識を持つらしく、2ちゃんねるに専用の「ボトムズを語るスレ」を立て、試合前試合後、各ボトムズサポーターが群れ集い、互いを慰め合う書き込みで溢れている。

 通常、この手のファンサイトは、試合に負けると選手や監督を罵ったり、叩いたりする書き込みで荒れるものだが、ボトムズスレはそこがまったく違う。どんなに連敗を繰り返そうが、実にほのぼのしているのだ。

「連勝は難しいね。まず、1勝しなきゃいけないから」(鳥取サポーター)。「年間1勝。2勝目あげたのは1年後だった」(北九州サポーター)。こんな自虐ネタで敗戦を笑い飛ばす。

 また、過去のボトムズ記録をきちんとまとめて「19連敗」のヴァンフォーレ甲府をレジェンド・オブ・ボトムズ、「55戦連続未勝利」という前人未踏の記録を作った北九州をグレート・オブ・ボトムズ、「154試合目初連勝到達」の草津(現群馬)をスペシャル・オブ・ボトムズと呼んで、負けのこんだクラブのサポーターを「まだまだ偉大な記録が存在しているよ」と、慰めたりする。

 さらに興味深いのは、応援するクラブこそ「底辺」だが、彼ら自身の実生活はリア充、ボトムズどころか「トップス」に近いということだろう。彼らによると、「弱いクラブを応援するという、ストレスが溜まり金だけ出て行く趣味を続けるには、実生活が充実していないと精神的に難しい」(スレッドより要約)らしい。

 クラブのために身銭を惜しまない(しかも小金も持っている)ボトムズサポーターたちをターゲットに、去年11月にはサッカー専門誌「週刊サッカーマガジン」(ベースボール・マガジン社)は「月刊J2マガジン」を創刊。Jリーグも『J2白書』(J’s GOAL J2ライター班/東邦出版)という公式本を毎年、出版している。

 弱さを受け入れ、それを楽しむ術を身につけたボトムズサポーターたち。それに比べて日本代表ファンのなんという了見の狭いことか。W杯レベルでは、日本代表なんてそれこそボトムズかどうかのボーダーライン。それなのに、「優勝」などという過剰な期待を抱いて、負ければ負けたで選手や監督を口汚く罵る。そういう自己投影型のにわかサッカーファンにはぜひ、彼らのサッカーの愉しみ方を学んでいただきたい。
(西本公広)

最終更新:2014.07.02 09:37

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