北九州一家監禁殺害事件“犯人夫婦の息子”の告白! 9歳の子どもを襲ったセーフティネットなき日本社会の冷酷

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息子が告白した「俺がどうこうって、問題じゃない」現実

 さらに息子は特殊な事情を抱えている。両親が殺人犯として逮捕されただけでなく、自身も壮絶な虐待を受け、また殺人遺棄現場を目撃しているのだ。実際“息子”は今でも“逃げ場のない明るい部屋”が苦手だと、心的外傷とも思える苦悩を告白している。つまり“息子”もまた被害者でもあり、肉体的、精神的にも公的なケアこそが必要だが、番組を見る限りそうしたケアが施された様子さえない。

 唯一、安定した仕事と人間関係を得られた場所、そこは“ヤクザの事務所”だった。社会からはじき出された者同士という安心感があったという。しかし、刑事が訪れ、未成年保護法により保護された結果、“息子”の居場所は奪われた。

 両親が殺人犯だからといって、当時9歳だった息子になんの罪があるというのか。しかし世間は“両親が殺人犯”という色眼鏡で見続けてきた。これは現在の日本の過剰な加害者バッシング、加害者家族バッシングの影響も大きいだろう。先日も、東名高速死亡事故をめぐって、容疑者の親であると勘違いされデマが広がった男性が、嫌がらせ電話が殺到するなどの被害を受けたことが大きな話題になった。仮にデマでなく本当に容疑者の親だったとして、そのような嫌がらせを受けるいわれはまったくない。このデマ被害を報じたニュースでは、デマであることばかりが批判されるばかりで、過剰な加害者バッシング、加害者家族バッシングについて指摘するものはほとんどなかった。

 今回“息子”がインタビューに応じることになったきっかけも、この加害者家族バッシングだ。今年6月、フジテレビが放送した『追跡!平成オンナの大事件』で北九州連続監禁殺人事件が取り上げられ、そのためネットでは“息子”を非難する声であふれた。そのため“息子”はフジテレビに抗議、その過程で担当者が謝罪したことから今回のインタビューが実現している。

“息子”の告白によって、浮き彫りにされた日本の絶望的セーフティネットの欠如と、加害者家族への偏見。実際“息子”は、番組の中で自分の置かれてきた環境をこう語ってもいた。

「これって俺がどうこうって、問題じゃないよね」

 セーフティネットの外側にいるということが、どういうことか。“息子”は24歳でそれをすでに認識し、言葉にしている。こうした状況に置かれた当事者が、それを証言できることは非常に少ない。しかも、その告白は“息子”自身のことだけではなかった。仕事を転々とし、その日暮らしをしてきた“息子”だが、幸いなことに5年前に正社員としての職を得て、24歳となった現在、“自分と似たような境遇”の女性と結婚した。その理由は結婚することで、“彼女の居場所を作る”こと、そして保険や年金などに入っていないという女性を自分の籍に入れることで “社会的保証が用意できる”というものだった。

「結局生活できないじゃないですか、そいつ(彼女)1人で」
「結婚しようと思ってはなかったんですが、嫁の社会保険やったり、年金とかもそうですけど、社会保障っていうですかね、まったく何もない状態だったので。親が何もしていなかったんで、病院にも行けないし。結婚したいからするっていう感覚じゃなくて、とりあえず結婚して自分の扶養に入れようって。嫁に対して社会的な保障がつくよね、っていうので籍を入れたんです」

 本サイトでも以前紹介したが、貧困層のなかには、学校にも通えなかったり、知的障害などのため、十分な知識がなく、そもそも社会保障の存在すら知らなかったり、自分がセーフティネットの外側にいるなど自覚できないケースが少なくない。なかには行政に対して恐怖感や忌避感をもっている人もいる。ましてや、そうした人たちが自分の置かれた状況、セーフティネットの外側にいるということがどういうことかがその実態が語られることはほとんどない。そういう意味で、“息子”という当事者が、ここまで明晰に自分の置かれた状況を語ることは、非常に貴重な証言だ。しかも “息子”は、自身の境遇を単に個人の苦しみとして個人的な体験とだけ捉えているのでなく、社会の問題としてとらえる視点もある。“似た境遇の女性”という他者に対しても踏み込んだ視点、社会的な問題意識を持ったうえで、社会保障やセーフティネットがないことが、どんな事態を招くのかを身を持って語っているのだ。

 今回の勇気ある告白に込められた日本社会への数多くの問題に、私たちは応えてゆく必要がある。

最終更新:2017.12.15 08:44

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