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新海誠に「気持ち悪いです」と言い放って怒らせた!『君の名は。』プロデューサー川村元気の仕事術

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 唾液というのは新海監督が言うほど一般的な趣味でもないと思うが、それはともかく、本を書くようになり変わった川村は監督のこのようなフェティシズムを削るどころか、むしろ物語に積極的に取り入れていく。

 しかし、かつて「悪魔」と呼ばれた側面も実は完全には消えていなかった。そして、それこそが『君の名は。』を成功に導いたともいえる。

『君の名は。』で新海監督を「一部でカルト的な人気を得る作家」というポジションから脱皮させた大きな要因として、特に『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』といった作品で表出する「ナルシシズムを多分に含んだ文化系男子の叙情」といった作風をある程度失くしたというのがある。

 これらの作品では、遠距離恋愛であったり年の差であったりといった諸要素で引き裂かれる恋を美しく描き、その悲劇に自己陶酔する男を情感込めて肯定的に描くため、強くシンパシーを抱く観客がいる一方で、「童貞の妄想をそのまま映像化する監督」とも揶揄されてきた。

 口噛み酒のような「フェティッシュ」は活かす一方で、川村はこういった要素を徹底的に排除しようとしていたようだ。しかも、その指摘の際は「これは無神経ですよ」、「気持ち悪いです」といった遠慮ない物言いだったのだというから驚きだ。新海監督はこのように語っている。

「下手をすると無神経な展開になりかねませんので、そう思わせないための「回路」をきちんと作る。その点、脚本会議で「これは無神経ですよ」とか「気持ち悪いです」とかダイレクトに伝えてもらったことで、だいぶ助かりましたね」(ウェブサイト「ダイヤモンド・オンライン」)

 しかし結果として、『君の名は。』は、新海監督のこれまでの主なファン層には含まれなかった若い女性にまで届く作品になったのだから、その指摘は正しかったということだろう。

 川村が脚本会議で指摘したのはそれだけではない。ストーリー展開のスピードやクライマックスのつくり方などについても提案を出し、結果としてそれは採用されているのだが、実はそのとき新海監督は密かに怒っていたという。彼はこのように振り返っている。

「会議には、たとえば川村元気という東宝のプロデューサーに入ってもらいましたが、彼は別に一行も書いてくれるわけじゃない。けど、たとえば「瀧が三葉になって目覚めるまでに20分もかかったら、ちょっと退屈しちゃうかもしれません」とか言うんです。あるいは、何カ所か設定したクライマックスのうち、「こことここの2カ所の間がちょっと離れすぎているから、ひとつにまとめたほうが泣けるんじゃないですか」みたいなことを言うわけですよ。(中略)「いや、ここに来るまでに相当、構成を考えたんだけど」みたいな(笑)。しかも、照れもあるのでしょうが、「ここで泣かせれば興収プラス5000万ですよ!」とか、冗談めかして言うわけです。それもカチンとくるんですけど(笑)」(「アニメージュ」16年10月号/徳間書店)

 そのように言いながらも、新海監督は「3年に一度、このチームであと1〜2本はこれより良い映画を作りたいと強く思いますね」(「日経エンタテインメント!」16年11月号)と語っている。次の新海監督作品でも、川村元気の見事なコントロールが見られるのか、それとも、いよいよ本当に新海監督を怒らせて決裂してしまうのか。生暖かい目で見つめていきたい。
(新田 樹)

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