『この世界の片隅に』に「反戦じゃないからいい」の評価はおかしい! “戦争”をめぐる価値観の転倒が

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 それは、玉音放送を聴いて家の外に飛び出したすずが見下ろす町の風景のなかに、一瞬、大韓民国の国旗、すなわち太極旗が掲げられるワンシーンについてだ。

〈太極旗が出てきてる一コマで朝鮮進駐軍の暴挙を表してるし、単純な反戦平和主義漫画ではない〉
〈玉音直後に太極旗が上がってたのはそういう愚連隊の乱暴行為が始まる合図かなと思った〉

「朝鮮進駐軍って何?」という人もいるかと思うが、これは在特会や『マンガ 嫌韓流』の山野車輪などのネット右翼が広めた完全なデマであり、彼らは当時の在日コリアンたちが終戦後に朝鮮進駐軍なる組織をつくり強姦や殺人などの犯罪を次々に犯したと主張しているが、根拠などまったくないシロモノだ。そうした情報を鵜呑みにしている人たちが、今回、作中で掲げられる太極旗を暴力のはじまりだと勝手に解釈し、それを「たんなる反戦平和じゃない理由」に挙げているのである。

 もちろん、原作者のこうの史代氏にしても映画の片渕須直監督にしても、徹底的に時代考証を行って作品化しており、「朝鮮進駐軍」なるトンデモ陰謀論を採用しているわけがない。

 むしろ、物語の舞台が軍港だった呉であり、そこでは大勢の朝鮮人たちが働かされていた史実を踏まえれば、作中の太極旗に込められているのは、この町で日本人と同じく在日コリアンたちが戦火に巻き込まれながら暮らしていたという事実であり、戦争によって大切なものを奪われた存在=戦争被害者としての主人公が、そのじつ大切なものを奪う側の存在でもあったことを知る場面だったのではないか。

 現に原作では、この場面で主人公すずは「暴力で従えとったいう事か」「じゃけえ暴力に屈するいう事かね」「それがこの国の正体かね」と述べている。この台詞が映画ではカットされているため太極旗の意味が伝わりにくくなっているが、ここで描かれているのは“戦争という行為に一方的な正義など成立しない”ということだろう。

 じつは、原作のこうの氏は、『夕凪の街 桜の国』が高い評価を受けた際に、一部で“日本人の不幸しか描かれていない”という批判を受けていた。作品では原爆スラムに暮らす女性が原爆症を発症し死に至るが、たとえば広島大学の川口隆行准教授は、その地域にたしかに存在した在日コリアンが作中では消されていることの意味をこう指摘した。

〈現実の広島市の都市空間から消滅した「原爆スラム」をマンガという媒体によって紙上に甦らせようとしながら、そうした忘却に抗うそぶりのうちに、コード化されたともいえる「原爆スラム」=朝鮮人というイメージの連結を密やかに切断している〉
〈『夕凪の街 桜の国』が、被爆六十年を目前に「日常の視点」を備えた「穏やかな」原爆の記憶を表象化しえたとすれば、その代償に支払ったものとは──いささか表現はきついかもしれないが──被爆都市の記憶の横領といった事態であった。イメージにおける排除空間の排他的占有といってもよい〉(『原爆文学という問題領域』創言社)

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

新着芸能・エンタメスキャンダルマンガ・アニメビジネス社会カルチャーくらし教養

『この世界の片隅に』に「反戦じゃないからいい」の評価はおかしい! “戦争”をめぐる価値観の転倒がのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。酒井まどの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 安保法制密約で自衛隊将校が実名告発!
2 安倍政権が企む“子なし世帯増税”の異常性
3 安倍の教育無償化はやっぱり嘘だった
4 柳広司、中原昌也らが東京五輪に疑問の声
5 日馬富士暴行で貴乃花批判のおかしさ
6 欅坂・平手が「今年はひどいことばかり」
7 安倍がネトウヨ『報道特注』に出演熱望
8 マツコ「安倍首相は馬鹿」にネトウヨが
9 内田樹が喝破!安倍独裁を容認させるもの
10 たけしが安倍を「軍国主義」と批判!
11 武富士より恐い奨学金の実態
12 「不倫学」が教える防止策とは?
13 稲垣、草なぎ、香取と日本財団の関係
14 オリラジ中田が日馬富士事件で松本批判?
15 美輪明宏が安倍と支持者を一喝!
16 鶴保前沖縄担当相に辺野古利権疑惑
17 国連が安倍政権のメディア圧力に勧告へ
18 “菅官房長官語”の非人間性を証明!
19 マツコがいじめ、弱者叩きの構造を喝破
20 今年も紅白はジャニーズが私物化
1国連が安倍政権のメディア圧力に勧告へ
2加計学園で設置審委員が内情暴露!
3直撃!前川前次官が加計認可の動きを批判
4日本大使館が「民進党は米国が分裂させた」
5義家前文科副大臣が加計疑惑に茶番質問
6萩生田が前川前次官にシンゴジラを観ろ
7安倍政権が乱発するトンデモ閣議決定
8欧米で安倍と訪日トランプに嘲笑の嵐
9安倍の教育無償化はやっぱり嘘だった
10鶴保前沖縄担当相に辺野古利権疑惑
11内田樹が喝破!安倍独裁を容認させるもの
12マツコがいじめ、弱者叩きの構造を喝破
13沖縄タイムス記者が官邸と百田に反撃
14安倍がネトウヨ『報道特注』に出演熱望
15山口敬之めぐり文春vs新潮がバトル
16安倍政権が企む“子なし世帯増税”の異常性
17 柳広司、中原昌也らが東京五輪に疑問の声
18「朝日、死ね」足立議員のトンデモぶり
19 安保法制密約で自衛隊将校が実名告発!
20JASRACが坂本龍一を騙しうち!

人気連載

アベを倒したい!

室井佑月

連載一覧へ!

アベを倒したい!

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄

"体育会系相田みつを"松岡修造は本当に「ブレない男」なのか? 年を追うごとに変わっていく修造語録を読み解く

「売れてる本」の取扱説明書

ネット右翼の15年

野間易通

高市早苗はいかにして"ネオナチ"と出会ったか

ネット右翼の15年

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

戦争を放棄せよ! 軍事力がなくても侵略と闘う方法はある、自由のために闘える!

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」