「この国に、戦前がひたひたと迫っていることは確か」野坂昭如が死の直前、最後の日記に書き遺したひと言

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 作家としての出発点であり、そして最期まで忘れられなかった戦争の記憶。本サイトでも既報の通りだが、じつは野坂氏は昨年の8月にもこのことに言及している。

〈ぼくは焼け野原の上をさまよった。地獄を見た。空襲ですべて失い、幼い妹を連れ逃げた先が福井、戦後すぐから福井で妹が亡くなるまでの明け暮れについてを、「火垂るの墓」という30枚ほどの小説にした。空襲で家を焼かれ一家離散、生きのびた妹は、やがてぼくの腕の中で死んだ。小説はぼくの体験を下敷きにしてはいるが、自己弁護が強く、うしろめたさが残る。自分では読み返すことが出来ない。それでも戦争の悲惨さを少しでも伝えられればと思い、ぼくは書き続けてきた。文字なり喋ることだけで、何かを伝えるのは難しい。それでもやっぱりぼくは今も戦争にこだわっている〉(毎日新聞出版「サンデー毎日」2015年8月23日号)

 このとき、野坂氏は〈戦争は人間を無茶苦茶にしてしまう。人間を残酷にする。人間が狂う。だが人間は戦争をする。(中略)戦場で殺し合いをする兵士が、家では良き父であり、夫である。これがあたり前なのだ〉とも書いている。戦争によって人間は平穏な生活や大切な家族を奪われるが、他方で戦争を行い、命を奪うのも人間なのだ。そのことをよく知る野坂氏は、前述の日記でも、いま世界に蔓延する“テロリスト憎し”のムードに注意を呼びかける。

〈テロが世界を脅かしている。
 当たり前だった日常が、テロによって奪われた。
 残虐な行為は許せるわけがない。だが、軍事力では何ひとつ解決は出来ない。これはすでに立証されている。
 戦争が戦争を呼び、テロリストを生んだ。どんどん根が深くなっている。
 テロリストは、空爆で根絶など出来ない。負の連鎖を止めなきゃ終りはない〉(12月8日の日記より)

 そして、野坂氏が最期まで警告を発してきたのが、安倍政権と安保法がいかに危険なものであるかということだった。

〈安保法がこのまま成立すれば、やがて看板はともかく、軍法会議設立も不思議じゃない。これは両輪の如きものとも言える。すでに特定秘密保護法が施行され、さっそくの言論弾圧。そのうち再びの徴兵制へと続くだろう。言論弾圧が進めば、反戦的言辞を弄する者は処罰される。すでにマスコミにも大本営発表的傾向がみられる。これがこのまま続けば国民の国防意識を急速に高めることも可能。たちまち軍事体制が世間の暮らしの仕組みの上に及んでくる。戦争ならば覚悟しなければならない。往年の国民精神総動員令がよみがえる〉
〈今は軍国主義の世の中ではない。だが、世間が反対しようと無謀であろうと、無理のごり押しを平気でする。決めたらひたすら突き進む。この政府の姿勢は、かつてとそっくり〉(前出「サンデー毎日」より)

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