ガンダム生んだ安彦良和が「ガンダムが『戦争はかっこいい』という誤解を生んでしまった」「SEALDs、見直した」

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 一方で、劇中の「戦争」からどんどん血なまぐささや悲惨さが抜けていき、しまいには“キャラクター萌え”に転じていったのが、『ガンダム』以降のアニメがたどった道であることもまた事実だ。

 たとえば、近年の萌え系美少女戦車アニメ『ガールズ&パンツァー』や、旧日本軍の戦艦を萌え擬人化したゲーム『艦隊これくしょん─艦これ』のアニメ版の大ヒットも「戦争」を欲望のはけ口にする傾向を象徴してはいまいか。ネット上で隣国や外国人に対する憎悪を吐き、「国交を断絶せよ!」「殺せ!」とがなりたてる人々も同様だ。そこには戦争に対するリアリティがまったく存在しない。

 今回の朝日新聞のインタビューでも、安彦氏は「基本的には誰でも『平和がいい』と思っている。しかし、戦争にはある種の魔力があって『戦争だ、戦争だ』とメンタルの部分が高揚する。戦争を繰り返してきた歴史からも分かるように人間の性みたいなもので、これは消せない」と語っているが、実は、彼は前々からこうした状況に対する危険性を指摘していた。

「僕たちはタッチの差で戦争を知らずに育ち、物知り顔で『戦争はいけない』というのはウソっぽい。だけど、若い世代のような、戦争をサブカルチャーの素材にして好戦的にも反戦的にもなれるような器用さも危うい。戦争を単純に肯定も否定もせず、リアルに見つめる目を持たなくてはなりません」(毎日新聞07年12月22日付夕刊「池田知隆の『団塊』探見」より)

 そして、なにより安彦氏自身、「ガンダム」で戦争を語ることに強い警戒心を示してきた。小説家・福井晴敏氏との対談のなかではこう語っている(読売新聞2006年1月4日付)。

「『ガンダムは戦争を描いている』と言い始めたのは、僕らより少し下の、いわゆるシラケ世代以後の連中ですよ」
「オタク世代にとって、戦争とは『面白い対象』でしかないわけで、ガンダムなんかで戦争を語らないでくれと思う。実際の戦争というのは、自分の彼女がレイプされたり、家族が死んだり、家を焼かれたりするもの。アニメで戦争なんか見たって、そういった感性は摩耗するだけ。反戦がテーマだなんて合理化しちゃいけない」

 実際の戦争世代ではない自分が「反戦」を言えば、どこか嘘らしさがでてしまう。それでも、好戦的な時代の空気に流されないためにはどうすればいいのか。このアンビバレントな感覚には、安彦氏がかつて新左翼運動や反戦運動に没入し、絶望的に挫折した経験が影を落としていることは想像に難くない。

「僕は北海道の田舎育ちで、『学生運動をやる』なんて意気込んで青森の大学に行った。でも全共闘もダメで退学になって、たまたま虫プロのアニメーターになった。『転向左翼がアニメ業界に逃げ込んだ』なんて言われるけれど、転向なんてカッコいいものじゃなかった。左翼も政治も消えちゃったんだから。しかもその体験から何も生み出せなかった、ダメな世代だと思っているんです」(前述の福井晴敏氏との対談より)

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