今なぜ“尽くす女”が礼賛されるのか?「ViVi」“プロ彼女”特集炎上問題を考える

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 たとえば、「プロ彼女を目指す(=レベルの高い男と結婚する)にはどうすればいい?」という見出しが付いた『“プロ彼女”だったらこうする! How to 実例集』では、“フツウの彼女”と“プロ彼女”のとる行動をシチュエーション別で紹介。「彼に作る料理」は、フツウ彼女がパスタやカレーである一方、プロ彼女は〈常に10品以上の和食〉という。で、その手料理を彼氏にダメ出しされたとき、フツウ彼女は〈「自分で作れ!」とキレる〉。が、プロ彼女は〈即謝って作り直す〉ときた。ごていねいにもキャプションには「美味しいご飯を提供するのが彼女の務め、と思っています。」と書いてある。

 これ、“プロ彼女”じゃなくて“究極のシェフ彼女”の間違いじゃないのか……? と疑問が頭をよぎるが、このほかにも、彼の友人が遊びにきたら一緒に飲まずに〈サービスに徹する〉、彼が浮気をしたら〈「帰ってきてくれたらいい」と笑顔で許す〉と、演歌の歌詞でしかお目にかかれない“男にとっての都合のいい女”像が延々とつづく。

 果たして、この記事を読んで「えー、私もプロ彼女目指しちゃおうかな!」なんて思う女性読者がいるのか? たぶん、この記事を企画した編集者も、そうは思っていないだろう。“プロ彼女”気取りの女性を過剰に演出して嗤う……その手の、女の「女ぎらい」を誘発させる、ティーン誌から赤文字系まで女性ファッション誌によくある企画、それくらいの志でつくられているようにしか見えない(少なくとも筆者には)。

 しかし、その“空気”というか“ノリ”こそが、もっとも戦慄する部分でもある。能町が意図した言葉の使い方ではないことを重々知りつつも、あえて「プロ彼女」を“男に徹底して尽くす女”と定義する。能町も指摘しているが、そのほうが“キャッチー”だからだろう。尽くす女がキャッチーな時代……それこそが、いまの時代を如実に映し出していると思うのだ。

 思えば、1980年に「MORE」(集英社)が読者アンケートをまとめた「モア・リポート」では、「オーガズムを得たことがあるか?」「セックスは好きか?」といった、これまで語られてこなかった女性の性が浮き彫りになった。女が自分の性について本音を語ってもいい──女性ファッション誌の添え物でしかない読み物ページが、女性が性を語ることを後押しし、社会現象にまでなる。これはその時代の女性たちの“欲望”に敏感に反応し、誌面化したからこそ生まれた現象だったはずだ。さらにバブル期には、中尊寺ゆつ子が命名した「オヤジギャル」が、男性週刊誌から女性ファッション誌にも飛び火。電車ではスポーツ紙を読み、人目もはばからずユンケルを一気飲み……そこで描かれた“男勝りの女”は、“男に媚びない女”でもあった。

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