ドイツ航空機墜落は副操縦士だけの問題か? 格安航空会社(LCC)のここが危ない!

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 2009年2月にはカナダのナイアガラの滝近くのバッファロー近郊でコルガン航空のボンバルディアQ400が落ち、乗客乗員と住宅地の住民計50人が死亡する事故があった。機首を上げて速度を増すべきところ、逆に下げて失速した。原因は、パイロットの訓練の欠落と過酷な労働条件による疲労だと指摘された。このときの副操縦士の年収は200万円以下ともいわれ、機長ともども遠隔通勤を余儀なくされていた。アメリカでは会社の拠点へ家族と一緒に引っ越すことを諦めて遠距離通勤をするパイロットが当たり前になっている。理由は給与が低いことに加え、いつまた会社が倒産したり、解雇されるかわからないからだ。

 こうした事例は決して対岸の火事ではない。背景には、LCCの参入による世界規模のパイロット不足がある。2014年には日本国内でもLCCのパイロット不足が深刻化し、大量欠航が相次いだ。ピーチ・アビエーションは年初から4月までに病気やけがに加え、航空法が定める身体検査の基準を満たせず就業できない機長が8人も出て、2000便余りが欠航した。そうしたことの影響か、同年4月には沖縄・那覇空港でエアバスA320が海面ギリギリを飛行する重大インシデント(事故に至らなかったが危険だった事例)を起こしている。

 航空会社にとってパイロット養成は大きなコスト負担だ。杉江氏の著書によると、例えばボーイング747で実機訓練を1時間行うと、着陸料の安いアメリカでも150万円はするという。消耗品のタイヤは1本50万円だ。そこで、実機訓練を大幅に削減し、シミュレーター中心に変更する動きが加速している。さらに、規制を緩和し、簡易に副操縦士を養成できるMPL(マルチクルー・パイロット・ライセンス)が導入されようとしている。これは小型機でのわずかな訓練を終了した後、ジェット旅客機のシミュレーターでの訓練で取得できる、あくまで対象機種の副操縦士に特化した限定ライセンスだ。副操縦士になるには、これまでは最低でも4年かかったものが、MPLの導入で2年に短縮できるという。コストを極限まで抑えようとするLCC経営者にとって、これ以上ないシステムだ。

 しかし、いくらシミュレーターの性能が向上しても、実機の訓練に勝るものはないのは素人でもわかる。とくに横風の離着陸テクニックは、シミュレーターをいくらやってもマスターできるものではない。これ以上、実機訓練の削減を行ってはならないと、杉江氏は断言する。

 さて、ジャーマンウイングス機の墜落事故だが、問題の副操縦士が元交際相手の女性に「いつかすべてを変えてみせる。僕の名前を誰もが知り、記憶に残るだろう」と話していたと独大衆紙ビルトが報じている。副操縦士は勤務先への不満を募らせていたようで、元恋人の話では「ふだんは穏やかなのに、待遇や将来など仕事のことを語ると興奮して別人のようだった」という。「給料が安い」と怒りをぶちまける一方、契約が更新されるか異様に怯えていた。夜中に突然「墜落するッ!」などと叫んで目覚めることもあったという。

 杉江氏が指摘するLCCパイロット特有の不安定な待遇が事故の背景にあったのだろうか。今後の調査が気になるところだ。
(時田章広)

最終更新:2017.12.19 10:33

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