自衛権拡大がもたらすもの…米軍は中東派兵で年250名の自殺者、自衛隊も自殺率14倍に

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 米軍の事例を持ち出して、日本もこうなるのでは、との懸念を続けると、「無節操に煽るな」と批判が飛ぶのだろうが、実際問題としてイラク戦争時に約1万人派遣された日本の自衛隊員のうち、実に28人もの隊員が帰還後に自殺しているのだ。ただでさえ高い日本の自殺率は1万人あたりで換算すると約2人だから、この28人という数値は突出している。古屋美登里の訳者あとがきには、派遣された自衛隊について「PTSDによる睡眠障害、ストレス障害に苦しむ隊員は全体の1割から3割にのぼるとされる。非戦闘地帯にいて、戦闘に直接かかわらなかった隊員にすらこのような影響が出ている」とある。つまり、危うい数値は既に出てしまっているのだ。

 帰還兵の苦しみは深い。「悪霊のようなものにとりつかれずに帰ってきた者はひとりもいないと思う。その悪霊は動き出すチャンスをねらっているんだ」「ひっきりなしに悪夢を見るし、怒りが爆発する」と帰還兵が漏らす。同じ隊の仲間が頭を撃たれ、彼の頭から噴き出しつづける血が今でも口の中に入り込んでくるかのような感覚に苛まれている帰還兵もいる。生活はひとまず元に戻ったというのに、頭の中が一向にリセットされないどころか悪化していく帰還兵は、「自分がモンスターのような気がする」と心の傷を深めてしまう。

 戦場で散った兵士を過剰に英雄視する手癖を持つアメリカ。夫を亡くした未亡人が、戦死者の追悼記念式典に出席したエピソードを怒りに満ちた筆致で日記に綴る。

「悲しみに沈んでいる家族を裏庭に40分も立たせたまま、トビー・キースの歌う『アメリカン・ソルジャー』を聴かせ、握手を無理やりさせ、『おめでとう』などと世にもばかなことを遺族に向かって口にする知らない人たちと抱き合うなんて、いったいだれが考えついたんだろう」。

 イラク戦争の最前線で戦った兵士の多くは貧困家庭の若い志願兵だった。部隊によっては平均年齢が20歳だったケースすらあった。戦火に散った若者は、遺された家族の内心など配慮せず英雄視され、帰還した者たちの精神的な病は丁寧にケアされることがない。無論、障害手当などは支給されるものの、不眠やパニック障害、アルコールやドラッグへの逃避、鬱病など、戦地で溜め込んできたストレスに押しつぶされる個々人のメンタルは放っておかれる。

 アメリカ政府は毎月、帰還兵の自殺を増やさないために「自殺防止会議」を開く。その月の自殺者の事例が淡々と報告される。「36歳の白人男性。兵舎の自室で首を吊って自殺しました」「橋から湖に飛び込んで溺死しました」「母親の家のガレージで首吊り自殺しました」……等の報告を受け、「これは恐ろしい出来事だ」「では来月また会おう」と繰り返され、会議は終わる。数値を下げたい、しかし、いつまでも対策を見つけられないのだ。

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