決算書にインフラ、住民サービス…イスラム国はテロ組織ではない、もはや国家だ

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 カリフとしての最初の演説で、バグダディはイスラム法に従う医師、技術者、法律家、各種専門家に向けて、自分の元に馳せ参じるよう呼びかけている。この演説は翻訳チームによってほぼリアルタイムでリリースされ、演説原稿はウェブサイトのほか、フェイスブック、ツイッターのアカウントに英語、フランス語、ドイツ語を始め数カ国語でアップされた。

 こうした巧みな広報活動も「イスラム国」の特徴のひとつだ。それらはアル・ハヤートという広報組織が指揮しているといわれている。インターネット上に英字雑誌「DABIQ」を展開したり、広報宣伝用の独自のアプリ「吉報の夜明け」も開発している。それが、世界各地から兵士を獲得することにもつながっている。今日のインターネットがもともとは米軍の通信用に開発されたアーパネットを前身にしていることを考えると、なんとも皮肉な話である。

「イスラム国」に「人」が集まるのは、それだけが理由ではない。

「カリフ制国家の再興」というこれまでのイスラム過激派組織にはなかった明確な目標を掲げたことで、「イスラム国」は他の武装集団との圧倒的な差別化ができた。これによって、世界中でくすぶっていたムスリムの兵士や優秀な人材が集まるようになった。単純な話だ。目的がはっきりせず明日をも知れないアルカイダに行くよりも「イスラム国」へ行こう!ということになる。まさにブランディングの手法である。

 ロレッタ氏の分析によると、「イスラム国」が台頭した背景には世界の多極化もあったという。冷戦下では武装集団のスポンサーは米ソの2つにひとつしかなかった。それぞれの武装集団が米ソの代理戦争を戦った。ところがポスト冷戦の多極化で大国の思惑が複雑に絡み合うようなり、その状況を明確に理解した「イスラム国」が、間隙を縫うように多様な資金源を獲得していったという。しかも、他の武装集団のようにいつまでも同じスポンサーに頼らず、早期に財政的な独立を果たしたとみられている。

 よくいわれているのが、シリア東部とイラク北部の支配地域にある多数の油田の存在だ。シリアで50カ所、イラクで30カ所あり、1日に8万バレルの原油が生産できるとされている。「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道によれば、1日の密輸額は200万ドルにも達するという。その他、前述の税金や寄付もある。さらにいえば、人質も「イスラム国」にとっては貴重な収入源だ。わかりやすく言うと“払えば解放される”のだ。「ニューヨーク・タイムズ」の報道によると、身代金の相場は一人当たり200万ユーロ(約2億9800万円)。それを考えると、今回の日本人2人に対する要求がいかに法外かがわかるだろう。2014年12月には殺された米国人記者の遺体を遺族に100万ドルで売却しようと持ちかけているとも報じられた。

 いずれにしても、「イスラム国」が単なるイスラム過激派組織で片付けられないほどとんでもない怪物になっていることがおわかりいただけたと思う。いま、日本をはじめとする国際社会は、この国家もどきにどう対応すればよいかが迫られている。前出の国枝氏は「長続きはしないだろう」との分析だが、ロレッタ氏はこんな不吉な“予言”すらしている。

〈ヨーロッパ各国の首脳がアル・バグダディと握手する日は訪れるのだろうか。(中略)今の時点で「イスラム国」と交渉するなど論外とされている。だが、(中略)彼らが好きなように中東の地図を書き換えてしまう前に国際社会に取り込み、国際法を守らせるほうが賢明ではあるまいか。〉
(野尻民夫)

【検証!イスラム国人質事件シリーズはこちらから→(リンク)】

最終更新:2017.12.09 05:06

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