今年も無理?空振り続く村上春樹ノーベル賞騒動に書店員が切実な思い

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「あの人たち撮り始めるとずかずか入りこんでくるんですよ」
「もう何社も来てカウンターの周りに群がってもう大騒ぎ。インターネットで検索しても、言葉がよく分からなくて誰が取ったか分からなくてさ」
「もう、大変、うまくニュースを捕まえられなくて、何度もやり直しをさせられて。何で私たちがテレビ局のいいなりにならなくちゃいけないんでしょうね」

 田口さんは、マスコミの取材が書店に殺到する理由を、村上が毎年「この日」に日本にいないからではないか、と推測する。「騒動がいやでご本人は海外で待機、それでとマスコミは『画』を撮りに書店に」となっているのでは、と。

 だが、こういう大変な目にあっても、書店員としてはやはり、村上にノーベル賞をとってもらいたいという。売り上げが低下する一方の書店業界で、村上の受賞は数少ない希望なのだ。

 本書では2012年のノーベル賞発表のときのエピソードが綴られているが、この年は村上春樹が大本命だとされていた。実は、ノーベル賞には、“ヨーロッパがとる年”“ラテンアメリカがとる年”“アジアがとる年”というふうに、年ごとに受賞者の地域が決まっていて、2012年は“アジアがとる年”だと書店員の間に噂されていたそうなのだ。

 ところが、受賞したのは、同じアジアでも、中国の莫言だった。同書からは、田口さんはじめ書店員たちの失望が痛いほど伝わってくる。

「莫言氏が受章した、ということは『今年がアジアの番』という説はあたっている。ということで、そうなると村上さんの受賞は何年後になるのでしょうか。」 

 2014年は“アジアの番”からまだ2年。とすると、今年も村上春樹の受賞はないのだろうか。正直、これまでは村上がノーベル賞をとろうがとるまいが、なんの関心もなかったが、この本を読んで、書店のために早くノーベル賞をとってもらいたいと思うようになった。

 同書の中で、田口さんは、ノーベル文学賞の選考委員会にこう語りかけている。

「ノーベル賞文学賞選考委員会様、もう七回も候補になっているって本当ですか。早く村上さんを選んでくださいね、もし一〇年以上経ってしまったら、世の中は電子書籍の時代になっていて、書店は、絶滅しているとは思いたくないけれど、ちょっとさびしい場所になっているかもしれません、考えたくないけれど。そうなると、テレビはアマゾンに押し掛けて、『電子書籍村上春樹本』の買い注文がドンドン伸びていく画面(そんなのあるのかな?)などというのを撮るのでしょうか。
 本当に急いでくださいね。」

 たしかに、時間はあまり残されていないかもしれない。
(橋場コウ)

最終更新:2015.01.19 05:09

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